8.鉄(Fe)染色

【原 理】
鉄(Fe3+)を含んで露出している構造物質にPerles試薬(黄血塩、塩酸酸性溶液)をかけると、その部位にベルリン青(Prussian blue)の不溶性沈殿を生じ、青色顆粒をつくる。
Fe3++K4[Fe(CN)6]+HCl → Fe4[Fe(CN)63


【臨床的意義】
骨髄中の可染性鉄を含む赤芽球sideroblastや網内系(マクロファージ)細胞の貯蔵鉄を観察する。鉄芽球性貧血と鉄欠乏性貧血(IDA)やその他の貧血の鑑別に有用である。


【ワンポイント】

  1. 固定時間が短いため、染色壺の底にガーゼをしき、あらかじめホルマリンを浸しておいた(30分位)ものを使用する。
  2. 固定後のホルマリン除去が不十分な場合は、後染色の核の染色性が悪く観察に不適となるので、急を要しない場合は風乾後1日室温に放置してもよい。
  3. 反応液は、①②③の順番どおりに混合する。順番を間違えると反応しない。
  4. 使用する器具は脱イオン水で洗ったものを使用する。
  5. 試薬は特級を使用し、調整した試薬はできるだけ早く使用する。
  6. フェロシアン化カリウム(黄血塩)溶液は黄色調が増し、やや緑かかったら新調する。
  7. サフラニンが古くなると針状結晶が析出する。

【判定法】
(1)陽性率の算定法
siderocyte(担鉄赤血球:%0)…赤血球1、000個に対する可染鉄赤血球の割合(網赤血球算定と同様)
sideroblast(担鉄赤芽球:%)…赤芽球全体を対象にした場合の陽性率

(2)判定法
鉄顆粒の数、大きさ、分布による分類を行う

【正常値】
siderocyte…0~3%0
sideroblast…20~90%(ほとんどⅠ型)

■Mac. Fadzean簡便法

塗抹乾燥標本
固定液 ホルマリン蒸気
室温5分
冷風 1時間以上
↓ 
反応液
室温1時間
① 2%フェロシアン化カリウム(0.5g/25ml) 25ml
② 2%HCl 25ml
③ 1%サフラニン0 5ml
使用時に①+②+③を番号順に混合し、濾過後使用する
水洗
乾燥
封入(enteran neuなど)  


【陽性顆粒:濃青色】


【鉄(Fe)染色判定法】

0型  0型 鉄顆粒を有さない. 
I型 Ⅰ型 少数の微細顆粒を有する.
(1~2個)(正常型)
II型 Ⅱ型 容易に識別できる大きさで鉄顆粒を3~5個有する.
III型  Ⅲ型 粗大で鉄顆粒も6個以上とかなり多いときに核の周囲に環状に配列する.
(pathological sideroblast=ringed sideroblast)
(IV型) Ⅳ型 (核の周囲の2/3くらいまで顆粒がある) 
(V型) Ⅴ型 (核の周囲だけに顆粒がある) 
(III~V型:環状鉄芽球)

【適応症例】

sideroblastの減少  sideroblastの増加
鉄欠乏症貧血
感染症
血清鉄の上昇する場合と鉛中毒
巨赤芽球性貧血
悪性腫瘍による貧血 再生不良性貧血、溶血性貧血、地中海性貧血、ヘモクロマトージス、
輸血によるヘモジデローシス
*鉄芽球性貧血、*鉛中毒、*ピリドキシン反応性貧血
(*環状鉄芽球ringed sideroblastを有する)

図1 骨髄 Fe染色
図1 骨髄 Fe染色

[MDSの症例]
MDS(FAB:RARS)にみられた環状鉄芽球である.
大型の未熟型は陰性であるが、成熟型の細胞には核周囲を取り囲むように鉄顆粒の沈着がみられる.


図3 ベンチジン法
図2 骨髄 (左)(右)Fe染色

[MDSの症例]
末梢血は汎血球減少で、骨髄における無効赤血球造血による鉄の利用障害、鉄過剰を反映して、骨髄マクロファージに鉄沈着像が認められる.MDS(FAB:RA)と診断された症例であるが、この形態像はMDSの診断に有効となる.

形態学からせまる血液疾患 阿南建一ら(株)岡山メディック、(株)近代出版 1999年

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