第67回 「マンスリー形態マガジン」 2016年11月号

『 “武者返し”の異名をもつ名城は今‥ 』

前 略

 日本の最大名城と知らされる肥後国「熊本城」は、本年4月17日のあの熊本大地震で甚大な被害を受け、図らずも13の建築物全てに深刻な被害が出ているようです。震災後の映像は衝撃的でただただ涙するしかありませんでした。先日、知人と久し振りに「熊本城」を尋ねましたが、大部分が震災時のままで、大きな建物を瀬戸際で踏ん張って支える一塊の角石の姿が痛々しいほどでした。定義は定かではありませんが、日本の三大名城は、熊本城、名古屋城、大阪城と言われています。熊本城を築城したのは ご存知「加藤清正」公(1562-1611)ですが、なかでも“武者返し”の異名をもつ石垣は圧巻で、反り返ったその姿は、堅牢(頑丈なこと)たる中世の要塞を象徴するものと言われています。
10月13日現在、熊本県の調べによる熊本地震被害状況(讀賣新聞.2016.10.22)は、直接死50人、関連死64人、大雨による二次災害死5人、避難者205人といわれます。大被害に見舞われた益城町では全壊や半壊の家屋は今だに残されている状態です。復興熊本に向けて通常営業を行なっている観光地も多くなり、また全国から熊本を訪れる観光客も増え活気を取り戻してきていることは嬉しい限りです。なかでも復興キャンペーンとして打ち出した「九州ふっこう割」チケットを利用すればリーズナブルに熊本を楽しむことができることも今後の大きなポイントになりそうです。
一方、熊本城の復興に向けては復興財源として寄付を募る「復興城主」制度が今回も取られそうです。
熊本市は1998年に、熊本城復元整備事業の財源として寄付を求める「一口城主」を創設し、一口一万円の寄付で「城主証」を発行し、天守閣内芳名板に名前を記載するサービスを行い、2016年3月末(震災の前)までに約18億円が集まったそうです。この度の熊本城復元事業にもこの制度が取り入れられそうですが、新しい制度として復興城主に個人番号を割り振り、番号を入力すると名前を映すスクリーンを観光施設に設置する計画だそうです。震災前に寄付された「一口城主」の約77,000人も対象となるそうです。市の試算によると、熊本城復興予算は600億円を超えるとされ、20年の長き時をかけての復旧を目指すことになりそうです。
熊本城復元のために皆様も「一口城主」になってみませんか。

資料:熊本市観光情報サイト
讀賣新聞.2016.10.15 

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 




著作権について

今回のねらい

 今回は、細胞化学染色と症例の形態診断に挑みます。 細胞化学染色は反応所見を如何に捉え、どのような疾患に応用されるかを検索してみます。
症例編は末梢血の汎血球減少症と骨髄有核細胞の増加から形態診断に挑みます。MG染色とPAS染色から形態診断のポイントはどこにあるのかを考えながら検索を進めてみて下さい。
今回も選択肢がありませんので多くの情報から絞り込んで下さい。

問題

次の特殊染色が意味するところの全てを考えて下さい。

1-1<設問1>

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

検査データと末梢血、骨髄像より考えられる疾患何ですか。

2-1<設問1>

【所見】
【3~8ヶ月.男児】
普通分娩出産、口内炎、脱水症状から入院される。肝脾腫大あり。
WBC51,000/μL、RBC372万/μL、Hb10.0g/dL、Ht30.1%、PLT7.8万/μL、NCC49.6万/μL

  • PB-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • PB-MG×1000

  • BM-EST二重×1000

解答・解説

一口情報

 末梢血および骨髄像の細胞同定を行なう場合は、その部位に存在する細胞を確認することから始まり、それらが変化なく存在しているようであれば正常構築として認識します。
全体的観察には、1個の細胞で判定することなく全体を把握した上で、反応性であれば多彩様式を、腫瘍性であれば単一様式を見抜くことがポイントかと思われます。
個別的観察には、対象とする類似細胞と比較しながら同定することが重要です。
一口情報として「核小体」の捉え方について考えてみることにしましょう。
MG染色で核小体を見つけ出すことは意外と困難なことが多いようです。
白血球系における核小体は、クロマチンがその周囲を取り囲む習性があり青白く浮き出てみえますが、赤芽球系ではその習性はなく沈んで見えます。
正常の血球分化過程で、核小体は芽球を中心とした幼若型にのみに出現し、成熟型では消失します。核小体は核内小器官であり、染色体の2次狭窄部にある核小体オルガナイザーによって作られ、主としてRNAとタンパク質から成り、“タンパク合成の盛んな細胞は核小体が大きい”と言われます。理由として、核小体はリボソームを生成する場であり、生成されたリボソームは細胞質におけるタンパク合成の場となり、核小体の大きい細胞はタンパク合成が旺盛と言えます。細胞の増殖にはタンパク質の合成亢進が必要であり、核小体が増殖に一役関わっていることも事実です。これは幼若型細胞の小器官のみならず増殖相にある細胞にみられる小器官とも言えます。例えば、成熟型の腫瘍細胞(バーキットリンパ腫)では比較的大きな核小体を有することが特徴ですが、それは増殖の旺盛を意味しているもので、符合するかのように細胞分裂像、高尿酸血症がみられるのも納得ゆく所見です。
ちなみに核小体を鮮明に捉えるにはベンチジン誘導体を用いたPO染色が有効になる場合がありますので試してみて下さい。

問題 1

(正解と解説)
末梢血液像でみられた細胞径18~25μm大の類似細胞または鑑別を要する細胞を取り上げました。 N-C比についてはN/Cとして表記しています。一般にN/Cは核の占める割合が細胞質全体の80%を基準として、それより大きい場合はN/Cが高い、小さい場合はN/Cが低いとして評価します。
異常リンパ球については、リンパ球や異型リンパ球に比べ例外を除くと、①N/Cが高い ②クロマチンがやや繊細 ③核形不整が顕著 ③核小体が明瞭 ④細胞質の突起・空胞 ⑤単一様式などの所見をポイントにします。

【正答】

A-異常リンパ球  B-単芽球  C-異常リンパ球  D-異型リンパ球  E-異型リンパ球  F-異型リンパ球

【解説】

(BM-MG ×1000)





A.はN/Cが低く、核は円形、クロマチン網工は粗剛で、核小体がみられ(→)、細胞質の好塩基性は強くまた顕著な空胞が特徴的です。空胞は大小不同性で比較的クリアーにみられます。正常のリンパ球や異型リンパ球が対象細胞になりますが、細胞質の強度の好塩基性や明瞭な空胞は合致せず、異常リンパ球が考えられます。本例はバーキットリンパ腫の白血化として診断されたものですが、成熟B細胞としての腫瘍増殖は強く核小体や細胞分裂像もよくみられます。

B.はN/Cが低く、核はほぼ円形、クロマチン網工は周囲の細胞に比べるとやや繊細ですが、この系統では最も荒いとみております。核小体は明瞭(→)のようで、細胞質の好塩基性と空胞がみられることから単芽球として同定しました。異型リンパ球が対象細胞になりますが、核質の構造はそれより繊細で、何よりも核小体が大きく数も多いことが特徴と思われます。本例は急性単球性白血病(M5a)として診断されたものです。

C.はN/Cが低く、核は濃染状で顕著な核形不整と核小体(→)がみられ、細胞質は淡い塩基性の異常リンパ球が考えられます。異型リンパ球が対象細胞になりますが、核の濃染状、盛り上がり状の核形不整や細胞質の淡い塩基性が合致しません。本例はATLのくすぶり型として診断されたものですが、成熟T細胞の腫瘍増殖として核小体が存在しても構わないと思われます。本型は末梢血にATL細胞の出現が少ないため、目視法で見逃されやすいことがあり、それが急性転化をもたらすためその対策が求められます。対策として、臨床側より患者情報が検査側へ届くようにすれば検査側は標本全体をくまなく検索し、ATL細胞を見つけ出すことにつながると思われます。

D.はN/Cが低く、核はほぼ円形、クロマチン網工はやや繊細気味で、白い部分(→)は一見核小体にみえますが、クロマチンの流れがそうさせたものと思われ、核小体として取らない方がよいかも知れません。従って、N/Cは低く、核形不整はみられず、核小体は不明瞭で、細胞質の強度な好塩基性から異型リンパ球に同定しました。対象は異常リンパ球になりますが、核の形態異常などがみられないことになります。本例はトキソプラスマ感染症にみられたものです。

E.は周囲の細胞に比べるとN/Cが低く、核は類円形で、クロマチン網工は粗剛、白い部分(→)は周囲にクロマチン塊が偶然にも集合したものと思われ、核小体のような様相を呈したものかも知れません。
細胞質の好塩基性が強く、空胞は認めますが異型リンパ球に同定しました。
B.の単球系との鑑別になりますが、それより核は小さく、リンパ球特有の核網工の荒さが鑑別ポイントになります。本例は伝染性単核球症にみられたもので単球様の異型リンパ球になります。

F.はN/Cが低く、核形不整がみられ、クロマチン網工は粗剛で核小体(→)はみられるようで、細胞質は淡い好塩基性で、小型から大型(楕円状)の空胞が顕著です、この空胞はPAS染色に強陽性を呈していました。本例は臨床病型よりATLの急性型として診断されたものです。C.と同様に成熟T細胞の腫瘍性増殖と認識すると核小体はみられてもよいのかも知れません。



問題 2

(正解と解説)
本例は、普通分娩出産後の乳児(男児)で顔面の皮疹や著明な肝脾腫がみられました。白血球数増加(51,000/μL)と血小板数減少(7.8万/μL)で、LD高値(1,497IU/L)、PAIgGとHbF(15%)が上昇していました。

【解説】

(PB-MG.1000)

(BM-MG.1000)

(PB-MG.1000)

(BM-EST二重.1000)

【末梢血液像所見】
MCVは80.9fL、MCHCは33.2g/dLでほぼ正球性正色素性貧血を呈し、血小板数のみが減少傾向(7.8万/μL)にあります。白血球分類では、St(1),Seg(42),Eo(1),Ly(31),Mo(21),At.Ly(4%)で、単球の増加(10,710/μL)が  顕著で、それは分葉傾向が強いようでした。末梢血のNAP活性はやや低値でした(陽性指数171,陽性率64%)。

【骨髄像所見】
骨髄は過形成(50.6万/μL)で、M/E比は6.0で顆粒球系が優位のなか芽球は3%の基準域でした。顆粒球系は、幼若型から成熟型の成熟過程がみられ単球の増加はさほどみられず、形態異常もみられませんでした。巨核球は散見される程度でした。

【染色体・遺伝子検査所見】
46,XY

【臨床診断】
著明な肝脾腫、白血球数の著増(単球成分の著増)、NAPの低値、HbFの上昇、Ph染色体/BCR-ABL遺伝子変異を認めないこと、また骨髄幹細胞のGM-CSFに対する感受性の亢進を認めたことより若年性骨髄単球性白血病(JCML)と診断された例です。
末梢血液像に増加する単球の形態は分葉傾向が強く、この形態はJCMLに特徴的なものと思われます。
骨髄では末梢血ほどの単球増加がみられないことが本型の特徴でもあります。
血小板減少については、PAIgG抗体が陽性のことよりITPと類似し自己抗体による末梢血での破壊も考えられましたが、骨髄では巨核球の増加はなく、脾臓腫大もあることより僅かに産生された巨核球が脾臓のマクロファージに捕捉されて破壊された可能性も考えられます。
WHO分類(2008)では、本症はRAS/MAPKシグナル伝達系に関わる遺伝子異常が特徴とされています。



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