第97回 「マンスリー形態マガジン」 2019年5月号

『浪速の春の風物詩』

   去る4月9日、大阪造幣局の敷地内にある“桜の通り抜け”を初めて訪れました。この「通り抜け」は、構内通路沿いに植えられた134品種、338本の桜並木を開花時期に観賞し、沿道を通り抜けることからそのように言われています。また、その歴史は古く、明治16年(1883年)、当時の造幣局長遠藤謹助氏が“役人だけが花見をしてはいけない”と一般に開放し、始まったそうです。会期は1週間で、当日は初日にあたり、午後1時間ほど滞在し、春の訪れを満喫致しました。まだ、蕾のままの桜も見受けられましたが、八重桜(ヤエザクラ)の花びらは重なり合い、牡丹のように咲き乱れ、優美ないで立ちで春の訪れを知らせていました。また、染井吉野(ソメイヨシノ)より少し開花が遅いため、絶妙のタイミングで観賞することが出来ました。「通り抜け」では、午後9時までぼんぼりが灯火されますので夜桜はまた格別でしょう。
  八重桜は、桜の花言葉から引用すれば“しとやか・理知”とされ、染井吉野(ソメイヨシノ)は“高貴・清純”と言われています。本所は、日本さくら名所100選にも選出されており、情報リサーチでは毎年約70万人が訪れ、全国8位の観桜者数で大阪エリアでは1位となっています。因みに全国では、1位は上野恩腸公園(400万人)、2位は青森弘前公園(200万人)だそうです。
  日本の国花は?と尋ねられると、菊(キク)を思い出しますが、広辞苑では「桜または菊」とされており、法的な公式性はなく、他国でも2種類以上の国花を持つ国もあるようです。そう言えば、パスポートの表紙や天皇、皇室を表す紋章には菊花紋章が用いられていますが、桜は、我々日本人には大変人気があり、古くから愛されてきました。優しい姿と繊細で桜色の花びらがあっという間に散り落ちていく姿に私たちそれぞれが自分自身を投影しながら、春の到来を感じ迎えているのでしょうね。
  このメールマガジンが配信される頃には、釧路市でも桜の見ごろを迎えることでしょう。本州では、サツキ、フジの花の季節を迎えますのでまだまだ春を謳歌しましょう。

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 


著作権について

今回のねらい

  今回は、細胞同定と症例検討を提示しました。
細胞編は、骨髄における赤芽球と思われる細胞を提示しました。提示細胞の形態情報を深く追究してみましょう。みえない部分がみえて来るという洞察力を“形態の目視録”に置き換えて今年は意気込んでおります。

症例編は、わずかな臨床像と検査データから次なる検査を模索し、骨髄像から臨床診断を試みて下さい。

問題

骨髄の赤芽球と思われる細胞像を提示しましたので、同定を行なって下さい。

1-1<問題1>

  • PB-MG×1000

光顕的所見から臨床診断を考えて下さい。

2-1<設問1>

【所見】
【60~65歳.女性】
主訴:貧血、血小板減少
WBC4,600/μL(Band10,Seg41,Eo2,Ly26,Mo21%)、RBC342万/μL、Hb10.7g/dL、Ht31.5%、PLT2.2万/μL、NCC35.4万/μL、NCC15.6万/μL(Blast3%)

  • PB-MG×400

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-PO/EST二重×1000

解答・解説

問題 1

   骨髄の赤芽球と思われる細胞像を提示しましたので、 同定を行なって下さい。

【解説】

BM-MG.1000


骨髄の赤芽球系の同定に挑みますが、異なる細胞が一種類あります。それは、一見赤芽球によく間違われることがあり、よく観察してみましょう。赤芽球系は、核にDNA合成障害が起こりやすいため、同定には核よりも細胞質を優先にすることを推奨します。また、赤芽球の大きさについては一部、小宮正文先生の図説血球のみかた(南山堂.1988)を参考にしています。

【正答】
A.好塩基性赤芽球、B.多染性赤芽球、C.多染性大型赤芽球、D.多染性巨赤芽球、E.形質細胞

【解説】
A~Eにおける5個の細胞の共通所見は、核は円形状、核の位置がほぼ中央にあることです。

A.細胞径22μm大、核のクロマチン網工は、やや粗大顆粒状、細胞質が好塩基性の色調から好塩基性赤芽球に同定しました。

B.細胞径13μm大、クロマチン網工は粗大顆粒状、細胞質が多染性の色調から多染性赤芽球に同定しました。多染性赤芽球は、10~13μmとされます。

C.細胞径17μm大の大型、クロマチン網工は粗大顆粒状、細胞質が多染性の色調から多染性赤芽球になりますが、正常よりも大型であることから、大型(マクロ)の多染性赤芽球に同定しました。大型については、あえて区分する必要性に課題を残しますが、一応区分した方がよいと思います。赤芽球の数量的減少に伴い、残存する赤芽球には個々のヘモグロビン量を増やす策が講じられたものと思われ、再生不良性貧血などで遭遇します。また、大きさは14~16μm近辺を捉えております。

D.細胞径25μm大の大型、クロマチン網工は細かい網目状で、細胞質は多染色性の色調から多染性赤芽球を考えますが、多染性の色調に核所見が一致していません。それは細胞質と核との間に成熟乖離(核の遅延)が起こったもので多染性巨赤芽球と同定しました。多染性巨赤芽球は16~18μm大の大型で細胞質も広くなることで成熟乖離を捉えることができます。

E.細胞径13μm大、核縁はしっかり縁取られた円形状、粗大なクロマチンの凝集塊、また好塩基性の細胞質には3時方向に核周明庭(→)がみられることで形質細胞に同定しました。通常ですと核は偏在傾向にあることで赤芽球と区別ができますが、このようにほぼ中心性の核の場合は、クリアな円形状とリンパ球に似たクロマチン網工がポイントになります。



問題 2

   60歳代.女性。貧血を主訴に来院し、血液検査から血小板数の著減を指摘され骨髄検査が施行されました。

【解説】

(PB-MG×400)

(BM-MG×400)

(BM-MG×1000))

(BM-PO/EST二重×1000)

(A)末梢血は白血球数4,600/μL、芽球はみられ、ず単球が21%(966/μL:→)と増加傾向でした。
(B)骨髄は正形成で芽球は3%、以下顆粒球系の分化過程がみられ、赤芽球は減少傾向でした。
単球は20%、三系統に特徴的な形態異常は認めませんでした。
(C)顆粒球系が優位、他に単球系には幼若型~成熟型がみられます(→)。
(D)PO染色は、顆粒球系が陽性、幼若単球に一部弱陽性(→)がみられました。
EST二重染色では、顆粒球系がクロロアセテートに青色陽性、単球はブチレートに茶褐色の陽性でした。

【関連検査】
染色体・遺伝子検査に異常は認めませんでした。

【臨床診断】
末梢血には芽球は見当たらず、単球は21%、絶対数966/μLで増加傾向にあります。骨髄では顆粒球系がやや優位であることから、慢性骨髄単球性白血病(CMML)に診断されましたが、follow upの条件付きでした。
WHO分類2017におけるCMMLの診断基準は、単球数が1,000/μL以上の持続性増加に加え、単球比率が10%以上の増加が条件として追加されました。従って、本例はCMMLの基準を満たすもので、新規に設定されたCMML-0(末梢血の芽球<2%、骨髄の芽球<5%)と思われます。
また、従来からのCMML-1とCMML-2はそのまま活かされているようです。尚、本病型では、診断補助としてTET2SRSF2ASXL1SETBP1遺伝子変異が新たに追加されました。



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