第83回 「マンスリー形態マガジン」 2018年3月号

『血液形態塾in沖縄/第2回阿南杯』の報告 と 『やんばるセミナー』のご案内

  1月27日(土)、ベックマン・コールター(B.C)社主催の「血液形態塾 in 沖縄」講演会が沖縄県島尻郡与那原町のアトル那覇薬品大会議室で開催されました。
  先陣をきって、BC社の新保文代さんが「自動血球計数装置における画像と細胞形態」のお話をされました。私は「形態異常のメカニズムを考える~血液形態に疑問を抱くとき~」のテーマで90分ほど頂きました。
  80名ほどの方々がご参加下さり、ご質問も頂き盛会裏に終了しました。形態異常に潜むメカニズムを考えることは奥深く形態診断を行なう上で避けては通れないことで、昨年より本テーマを掲げて行脚しておりますが、今後もさらに追究してみてみたいと思っております。
  講演会終了後は、那覇空港に近隣する瀬長島で、「第2回チキチキ阿南杯」(ソフトボール大会)が開催されました。血液担当者やそれ以外の若手を中心に25名ほどが集合し、天願聖子監督(那覇市立)率いる“チーム普天間”と大川有希監督(赤十字)率いる“チーム阿南”の対抗戦となり、緊迫のなかにも楽しい時間を過ごしました。私は9回まで投げ打点も稼ぎましたが10-9で惜しくも負けました。本杯は野球好きの私のために沖縄血液研究班のメンバーが2年前に企画して下さったことで、第1回では若手の交流を図ることができたことから第2回目の開催になりました。翌日は、手登根稔さん(浦添総合病院)のご配慮により北部のミカン狩りと寒緋桜の見物(日本で1番始めに咲く桜)に出かけ和みの時を過ごせました。
  次にご案内です。6月16日(土)15:00~19:30、ホテルマハイナウエルネスリゾート沖縄(国頭郡本部町)で「血液セミナーin やんばる2018」が開催されます。コンシェルジュは手登根さんです。講師陣は栗山一孝先生、下村大樹技師、阿南が務めます。本セミナーは以前に開催された石垣島、宮古島に次ぐもので、これまで全国よりお越し下さり交流を図っております。マハイナウエルネスリゾートホテルは、海洋博公園、沖縄美ら海水族館のある北部に位置する長期滞在対応リゾートホテルです。梅雨明けの沖縄をセミナーで学びリゾートで快適に過ごしてみませんか。

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 


著作権について

今回のねらい

  今回は、年6回に三島事業場で開催されるベックマン・コールター社のカスタマートレーニング「形態学コンシエルジュコース」においてご質問の多い単球系についての同定に挑みます。単芽球~前単球~単球の分化過程の細胞が今日になっても鑑別困難な細胞群にあげられているようです。

  症例は、これまた単球系が絡むものを提示しました。僅かな検査データを参考にして、末梢血、骨髄のMG染色所見を中心にPO染色、EST二重染色の判定を踏まえ形態診断を試みて下さい。そして確定診断に必要な検査も考えながら診断へ結びつけて下さい。

問題

骨髄の細胞同定を行なって下さい。

1-1<問題1-A>

1-2<問題1-B>

形態診断に必要な所見を考え、臨床診断を行なって下さい。

2-1<設問1>

【所見】
【15-20歳.女性】
【主訴】貧血、出血斑  【現病歴】肝脾腫
【検査】WBC41,800/μL(芽球10%、単球15%)、RBC246万/μL、Hb8.1g/dL、PLT7.8万/μL、【骨髄】 NCC16.1万/μL(芽球様15%)

  • PB-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-PO×1000

  • BM-EST二重/EST×1000

解答・解説

問題 1

   骨髄の細胞同定を行なって下さい。

【解説】




    単球系細胞の鑑別は、BC社のカスタマートレーニングでもよくご質問を頂くことで、今回その鑑別に挑戦してみました。単芽球、前単球、単球については世界的にも鑑別困難な細胞のようで、ようやくWHO分類が2008年の第4版にそれらの鑑別法を掲載しました(対象はAML-M5の例)。個人的には単芽球と単球の鑑別ポイントに差があるようです。異なる主たるポイントは核のクロマチン網工(核網工)にあります。WHO分類では単芽球はlacy、前単球はfine、単球はcondencedと捉えていて、英訳すれば、透けてみえる、細かい 粒状、凝縮状となるのでしょうか。個人的には、単芽球は凝縮状で、単球は繊細‥と逆に捉えています。全体像から三者を解析しますと、大型で豊富な細胞質が豊富は共通所見で、単芽球は好塩基性で突起を有し、核は円形で核小体が明瞭、アズール顆粒は稀にみられます。前単球は細胞質の好塩基性は薄れ、核形不整や微細なアズール顆粒が豊富にみられます。単球はやや小型化し、核形不整は顕著で分葉傾向を呈し、細胞質の好塩基性はさらに薄れ、微細なアズール顆粒がみられます。PO染色では前単球から弱陽性を呈しますが陰性も多くみられ、単芽球はほぼ陰性ですが、経験的にごく一部に弱陽性を呈することがあります。
本項では慢性骨髄単球性白血病(CMML)の例を提示しました。単球の増加に加え、顆粒球系には形態異常がみられ、単球との鑑別を要します。私見ながら同定してみましたので参考にして下されば幸いです。

【正答】

(Case A) 1.前単球 2.好中球(巨大化) 3.骨髄球 4.単球 5.単球 6.好中球(輪状核) 7.前単球 8.リンパ球
注)3.と4.は、2.や5.に押されたり、互いに密着していることで、細胞の大きさが少し縮んでみえます

(Case B) 1.単球 2.単球 3.単球 4.単球 5.単球 6.リンパ球 7.形質細胞
注)2.と3.の単球は、核の占める割合は周囲の単球に比べると大きいのですが、細胞の大きさは変わらないことと、A.の1.と7.の前単球に比べると明らかに分化傾向があるものと解釈しました。



問題 2

   15-20歳.女性。貧血と出血斑で来院されました。受診時の検査データで白血球増加(41,800/μL)、貧血、血小板減少がみられました。精査のため骨髄検査が施行されました。

【解説】

(PB-MG×1000)

(BM-MG×400)

(BM-MG×1000)

(BM-PAS×1000    BM-ACP×1000)


【末梢血】

(A)白血球増加(41,800/μL)の白血球分類で芽球が10%と単球が15%みられました。単球数は6,270/μLと増加傾向にあります。芽球の出現と単球数が5,000/μL以上より急性骨髄単球性白血病を考えました。

【骨髄】
(B)正形成の骨髄において芽球様が15%と増加していました。その周囲には単球系がみられます。
ただ、単球系に前単球と思われるものも含まれており、それらを芽球に追加すると25%位になりそうでした。

(C)PO染色では、対象となる好中球(11時方向)は陽性を呈し、芽球様(3時方向:赤矢印)も陽性がみられます。
下段は単球と思われ、6時方向(青矢印)に弱陽性がみられますが、他の単球は陰性のようです。
MG染色とPO染色から顆粒球系に単球系の混在がうかがえます。

(D)EST二重染色は、顆粒球系に陽性を呈していますが、単球はブチレートESTに陰性のようです。

(E)非特異的EST染色のアセテート法では単球系はびまん性に強陽性(青矢印)がみられます。

【生化学】
血清LD高値、血清・尿リゾチームの上昇がみられました。

【免疫形質】
CD4・14・11b・11c・13・33・36・68・HLA-DRの発現がみられました。

【染色体】
46,XY

【臨床診断】
末梢血に芽球の出現と単球の増加、骨髄は芽球が25%と顆粒球系と単球系の混在より急性骨髄単球性白血病(M4)が疑われました。PO染色で、芽球を含め顆粒球が陽性、単球系は陰性から弱陽性、EST二重染色でブチレートに陰性でしたが、アセテート単染色にびまん性陽性で、単球系の存在が確認できました。他に、血清・尿中リゾチームの高値や表現型の結果よりM4と診断されました。
経験的にEST染色のアセテート法はブチレート法より鋭敏性が高いのですが、陽性態度がびまん性になることで弱陽性の判定に注意を払うことが大事です。M4やCMMLでは、前単球が芽球に算定されるため、前単球の同定が重要になり、また単球は腫瘍性の一環として捉えることになるので、正常の単球に比べるとやや大型で、核はやや優位で、核形不整が乏しいものもみられるようです。



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