第81回 「マンスリー形態マガジン」 2018年1月号

『男のロマンを演じた重見周吉』    

  明けましておめでとうございます。
2018年も「マンスリー形態マガジン」にご支援賜りますようお願い申し上げます。
  本年の第1回目は、夏目漱石を誕生させたと言っても過言でない重見周吉先生を紹介します。重見周吉は輝かしい業績を持ちながらも無名の人です。
  重見は1865年(慶応元年)11月22日、愛媛県今治志の商家に生まれ、8人兄弟姉妹の6番目になります。
  地元の小・中学校卒業後、1878年(明治11年)19歳で渡米(私費留学)し、1888年(明治21年)米国エール大学理学部を卒業後学位を受けると同大学医学部へ入校しました。1889年、重見24才のとき、学資を得る目的で米国にて日本の平民の文化と生活を紹介した自伝的エッセー「A Japanese Boy by himself」、邦題「日本少年」を出版し、西欧人にとっておとぎ話の国であった日本のイメージを大きく塗り替えたと言われます。
  1891年(明治24年)6月、エール大学医学部を卒業し医学博士の学位を得て同年11月帰朝し、1893年(明治26年)、学習院の英語教師として採用されました。折しも、後の文豪・夏目漱石も学習院の採用試験を受けたそうですが不採用になっています。漱石(当時.金之助)は帝国大学文科大学を卒業後大学院に入る一方、最初の就職活動として学習院を応募したことになりますが、漱石にとってここがターニングポイントであったと思われます。もし学習院に漱石が採用され、松山中学に赴任しなかったら、日本文学の歴史は変わっていたかも知れません。
  重見は学習院採用に先立ち3年間は慈恵会医科大学(現.東京慈恵会医科大学)で教鞭をとっています。留学で培った英語力を慈恵医学校および学習院教授職で発揮しますが、学習院教授職をめぐっては期せずして夏目金之助の進路に端緒的に関与する格好となり、結果的に夏目漱石に重要な方向性を与えた人物であったと言えるでしょう。

[資料]奥村紀子:漱石のライバル重見周吉と『日本少年』.2005

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 


著作権について

今回のねらい

  今回は、骨髄の細胞同定と形態診断に挑みます。
細胞同定は骨髄の非造血細胞に類似する造血細胞を提示しました。類似細胞については鑑別のポイントを述べて下さい。
  症例編は、血算値のみから三症例の形態診断を行なって下さい。
三例とも特徴ある形態像を呈していますのでその特徴をしっかり捉えて鑑別診断を試みて下さい。

問題

骨髄の細胞同定を行なって下さい。

1-1<設問1>

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

骨髄のMG染色からA、B、Cの形態診断を行なって下さい。

2-1骨髄のMG染色から形態診断を行なって下さい。

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
   骨髄の類似細胞を提示しましたので、鑑別ポイントを明確にして同定を試みて下さい。非造血細胞と造血細胞の特徴を掴みましょう。A~Dが非造血細胞で、E~Fが造血細胞です。細胞の大きさはA~Eが約30μm大で、Fが約25μm大です。

【正答】

(Case A) 細網細胞
(Case B) 形質細胞
(Case C) 造骨細胞
(Case D) 細網細胞
(Case E) 巨核芽球
(Case F) 骨髄芽球

【解説】

(BM-MG ×1000)






(Case A)
豊富な細胞質は淡青色で辺縁が不明瞭です。核は円形でクロマチン網工は繊細で核小体が中央にみられるようです。細胞質辺縁の不明瞭さは非造血細胞と思われ、細網細胞に同定しました。

(Case B)
豊富な細胞質は赤色で染められ空胞を有し、核の周辺は明瞭で核周明庭(ゴルジ野)を思わせます。
核は円形でクロマチン網工は粗剛でクロマチンの凝集が顕著にみられます。形態から形質細胞を思わせますが、通常の好塩基性に比べて赤色が強調されていることは本細胞が有する免疫グロブリンの産生能が強調されたものと思われます。このような赤色が強調されるものはフレミング(flaming:火焔)細胞とよばれます。

(Case C)
豊富な細胞質はさらに拡大し、核は偏在し今にも飛び出ようとしています。細胞質は赤味を帯びているようですが(写真の色調の影響?)、通常は好塩基性に富んでいます。一見、形質細胞に類似しますが、明庭(ゴルジ野)は核より離れた部位にみられ、核の飛び出しも特徴的な所見として造骨細胞に同定しました。

(Case D)
豊富な細胞質の12時方向は溶出し、僅かにみえる部分は淡青色で辺縁は不明瞭です。核は円形でクロマチン網工は繊細で核小体もうかがえそうです。本細胞も非造血細胞であり細網細胞に同定しました。

(Case E)
N/C比は核が優位の傾向にあり、好塩基性の細胞質は辺縁が明瞭で突起(舌状)を有し、顆粒はみられないようです。核は類円形で12時方向に僅かに不整がみられ、クロマチンは粗剛のようです。
芽球には同定したいものの、当然1個では無理が生じます。本例は周囲にも増加がみられており、AML-M7として診断されたものですので巨核芽球になります。細胞質の突起が形態のポイントかも知れません。

(Case F)
細胞全体から核の占める割合は80%以下よりN/C比は低いと認識し、核は類円形でクロマチン網工は繊細で中央に核小体がみられるようです。淡青色で辺縁が明瞭な細胞質には若干アズール顆粒を認めます。
核網工が繊細で核小体を有することから顆粒を有する骨髄芽球に同定しました。本例はAML-M1の症例です。 



問題 2

   白血球数の増加に伴い、骨髄にて顆粒球系細胞に形態変化を来した症例です。三例とも白血球数の増加例と顆粒球系細胞が優位であることが共通所見です。

【解説】

(PB-MG×1000)

(BM-MG×400)

(BM-MG×1000)

(LN-MG×1000)

(LN-MG×1000)

(LN-MG×1000)


A. 60歳代.男性

   WBC32,000/μL、RBC416万/μL、Hb13.8g/dL、Ht36.2%、PLT32.4万/μL、NCC38.5万/μL
骨髄は赤芽球系が抑制され、増加する顆粒球系細胞には分化過程がしっかりとうかがえます。
顆粒球系にはところどころに低顆粒(顆粒の80%以上が脱顆粒)の細胞(矢印)がみられます。周囲には好塩基球や好酸球や好酸球の増加もみられました。芽球の増加もないことから慢性骨髄性白血病(CML)の慢性期を考えます。末梢血液像も同様な形態所見でした。CMLではMDSと同様に顆粒球系の低顆粒が診断づけます。本例は、NAP活性が低値で、Ph染色体とBCR-ABL1遺伝子異常が証明され、CMLの慢性期として診断されました。






B. 乳児.男児
WBC50,000/μL、RBC325万/μL、Hb8.2g/dL、Ht24.9%、PLT9.7万/μL、NCC50.6万/μL
骨髄は顆粒球系細胞が優位のなか成熟赤芽球(矢印)も混在してみられます。顆粒球系には分化過程がうかがえます。A.の症例と異なる部分は、顆粒が異常なほど多くみられることです。豊富な顆粒の出現は重症感染症や薬剤(G-CSFなど)投与後など、多くは二次的変化を考慮すべきかと思われます。本例は、血液培養が陽性などより、敗血症による白血球増加症と診断されました。Ph染色体やBCR-ABL1遺伝子を認めなかったことからCMLは否定されました。









C. 70歳代.女性
   WBC49,200/μL、RBC286万/μL、Hb7.8g/dL、Ht25.2%、PLT18.4万/μL、NCC85.4万/μL
骨髄は過形成で顆粒球系細胞の増加に伴う赤芽球系細胞の抑制がみられ、好中球に脱顆粒や輪状核、また低分葉核(偽ペルゲル核異常)がみられます。形態異常として他に小型の巨核球(矢印)がみられます。
本例は、特に顆粒球系の異形成が特徴であることより非定型慢性骨髄性白血病(atypical CML)が考えられ、Ph染色体やBCR-ABL1遺伝子を認めなかったことから、CMLは否定され非定型慢性骨髄性白血病と診断されました。



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