第56回 「マンスリー形態マガジン」 2015年12月号

『 血液形態検査、今考え今後に残すこと 』

前 略

1年の締めくくりとして、今、後進に伝えたいことを2点に絞りお話してみたいと思います。
それは約40年の技師生活のなかからと、学生教育に携わっている現状から気づいたことです。
1つは臨床検査技師として臨床研究グループに積極的に参画することと、もう1つは教育施設と臨床現場の双方向性についてです。
臨床検査技師は、日頃より臨床とのコンセンサスをとりながら高度な臨床診断を目指すことが 求められます。これで十分なのですが、施設外活動の一環として臨床研究グループに参画して、技師が生かせる場にも目を向けて欲しいと思います。私は在職中に全国レベルの小児がん白血病研究グループ(CCLSG)と九州山口小児がん研究グループ(KYCCSG)の2つのグループに所属し、形態中央診断の業務を担当させてして頂きました。18年間に約3,000例を経験し、形態診断の重圧を感じながらも全国の小児科医とコンタクトをとりながら、治療の知識や形態診断の向上につながったことは事実です。退職後、2011年より小児グループが1つに結束された日本小児白血病・リンパ腫研究グループ(JPLSG)において、再び形態中央診断部(今回はALL)に参画し、これまで約1300例のALLの初発から治療後の形態管理を担当しております。
教育施設に関しては2施設の“血液形態学”を中心に講義・実習を担当させて頂いておりますが、顕微鏡実習を例にあげると、施設間に指導内容や指導方法に統一性が見当たりません。形態学は即習得することは困難であり、せめて教育施設で基本から応用を学び、臨床現場で実践を経験することが理想と思われます。すなわち、二者間には“架橋結合” たるものが存在すべきと思われますが、現状はお互い任せの感があるようです。これを打破するには、日本臨床検査学教育協議会(2006)、臨床検査技師教育臨地実習ガイドライン(日本臨床検査技師会.2013)などを参考に臨床検査技師教育の水準向上を図り、果ては臨床現場との双方向性が1本線になるように勝手ながら期待したいと思います。

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



=訂正とお詫び=

福貴野の滝

昨年9月に近代出版より発行しました『エビデンス血液形態学』に訂正がありましたので謹んでお詫び申し上げます。

[訂正箇所]
P.7の3)塗抹に潜むこと‥7行目
22%アルブミン添加血液(アルブミン19血液)で処理した後の‥



著作権について

今回のねらい

本年の最後の問題となります。本年もお付き合い下さいましてありがとうございました。
今回は末梢血液像および骨髄像の細胞同定と光顕的診断に挑みます。
末梢血液像では類似細胞を提示しましたので鑑別を試みてください。
骨髄像は空胞を有する非ホジキンリンパ腫細胞を提示しましたので、考えられる悪性リンパ腫を考えてみてください。
症例につきましては白血病を提示しましたので光顕的診断を試み、そしてその疾患に必要な検査所見も考えてください。

問題

末梢血液像の細胞同定を行ってください

1-1<設問1>選択

  • PB-MG×1000

  • PB-MG×1000

  • PB-MG×1000

  • PB-MG×1000

  • PB-MG×1000

  • PB-MG×1000

骨髄像の細胞同定を行ってください。

2-1<設問1>

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

骨髄の光顕的診断を行い必要な検査を考えてください。

3-1<設問1>

  • BM-MG×1000

  • BM-PO×1000

  • BM-αNA/EST×1000

  • BM-ACP×1000

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
末梢血液像の鑑別細胞を提示しました。AとB、CとD、EとFがそれぞれ鑑別細胞になります。

【正解】

(CASE A) ②.分葉核球、(CASE B) ③.単球、(CASE C) ⑦.有核赤血球
(CASE D) ④.リンパ球、(CASE E) ⑤.異型リンパ球、(CASE F) ⑥.異常リンパ球

【解説】



AとBは、共に約18μm大で過分葉を示しますが、クロマチン網工や細胞質の色調や顆粒の出現が異なります。Aの過分葉好中球は、核(クロマチン)網工が粗剛で結節状、細胞質は淡い好酸性色で細い二次顆粒を有します。Bの過分葉単球は、核網工が繊細で、細胞質は淡灰青色で微細なアズール顆粒の充満が特徴です。過分葉の細胞は団子状にして考えると核構造がしっかりと掴めます。双方とも化学療法後に出現したものです。

CとDは、共に約12μm大で核中心性を示しますが、核網工や細胞質の色調が異なります。
Cの多染性赤芽球は、核網工が粗剛でクロマチンの凝集塊が顕著で、細胞質はヘモグロビン合成の旺盛な多染性赤芽球になります。赤芽球の核はほぼ円形で核と細胞質が同心円状に存在するといわれます。Dの小リンパ球は、平坦状ながらも塊状のクロマチンがみられ、細胞質は好塩基性を有します。リンパ球の核の位置は一般的にはやや偏在性が多く、小リンパ球の好塩基性は本細胞の特徴のようです。

EとFは、共に約25μm大の大型で核形不整を示しますが、核形不整の顕著さや核小体の存在が異なるようです。Eの異型リンパ球は、N/C比が低く、核形不整は軽度にみられ、細胞質には部分的に好塩基性を認め単球様を伺えます。Fの異常リンパ球は、N/C比がEよりやや大きく、核形不整が顕著で、一部に核小体がみられ、細胞質の好塩基性は軽度のようです。Eは伝染性単核球症、Fはバーキットリンパ腫にみられたものです。もちろん周囲の出現様式が決め手になり、Eは多様性(単球様や形質細胞様の混在)様式で、Fは単一様式を示します。
尚、N/C比が高いとは、核の占める割合が80%以上の場合を指しますが、私的にはmerge大(核と細胞質の接する部分が2/3以上)もポイントにしています。

問題 2

(正解と解説)
空胞を有する細胞は様々ありますが、骨髄像にみられた非ホジキンリンパ腫の細胞を提示しました。
Cは特徴的なものとして、BとDは症例の中に空胞を有するものがあるという認識から提示しました。もちろん空胞の所見のみで診断することはありませんので注意してください。

【正解】

(CASE A) ②.びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)
(CASE B) ④.成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)
(CASE C) ①.バーキットリンパ腫(BL)
(CASE D) ④.成人T細胞白血病/リンパ腫

【解説】




AのDLBCLは、一般的に大型で空胞を有するのでBLを除外した上でDLBCLを考えますが、例外もあります。核は類円形で細胞質の好塩基性は弱く、空胞は他の例に比べ小型で均一性、まずはB細胞性の性格をマーカーで捉えることになります。

BとDのATLL(ATL)は、異なる例で細胞形態は全く異なります。Bは大型で核形不整がみられ、細胞質の好塩基性は中等度で、空胞は小型で均一にみられます。Dは大型で二核の濃染状核を有し、細胞質の好塩基性は強度で、空胞の大きさは小型から少し大型のものもみられます。
本例は、T細胞の性格でかつ抗HTLV-Ⅰ抗体が陽性を示した例です。筆者がATLで空胞を有する病型を初めて経験したのは、15年ほど前の現役時代、南九州に異動した時でした。それまでに北九州では経験したことがなく、ATLの研究に詳しいある先生は“ATLの形態は何でもあり”とも言われます。

CのBLは、中型から大型の核で、核形不整が顕著、細胞質の好塩基性は強度で、空胞は大型で明確な輪郭が特徴のようです。この空胞はズダンⅢ染色に陽性で中性脂肪とされます。
B細胞の性格を証明し、約90%に認めるt(8;14)(q24;q32)の核型異常とc-myc遺伝子を証明することになります。他の例と異なる所見は、細胞質の好塩基性は深みのある濃青色と空胞がクリアカットにみえることにあるかと思われます。

問題 3

(正解と解説)
急性巨核球性白血病の例を提示しました。特殊染色ではペルオキシダーゼ(PO)染色、アセテートエステラーゼ(A-EST)染色、酸ホスファターゼ(ACP)染色を供覧します。

【正解】

④.AML-M7

【正解と解説】

(BM-MG×1000)

(BM-PO×1000)

(BM-αNA/EST×1000)

(BM-ACP×1000)
MG染色の所見:
骨髄では芽球が優位で、芽球には大小不同がみられ、核は類円形で濃染状や淡染状の色調を有し、細胞質は淡青色で核周囲と辺縁部に色調が異なる二重構造がみられ、またやや太めの突起がみられます。

PO染色:
芽球はPO染色に陰性です。これらの形態所見にPO染色の陰性所見を加味すると増加する芽球については巨核芽球を考えることになるでしょう。

EST染色:
非特異的EST染色の一法であるA-EST染色ではびまん性の茶褐色陽性を呈します。
巨核球系はブチレートESTよりもA-ESTの方が陽性率は高いようです。

ACP染色:
サイトスピン標本でACP染色を行ったものですが、細胞質のゴルジ野相当に限局性の陽性を呈しています。このような陽性態度が少し大きな塊になると単芽球として、もう少し小さな塊になるとT-ALLやT細胞リンパ腫細胞として捉えることができます。

AML-M7の巨核球系細胞のマーカーは、巨核球系のCD41,42,63が陽性、骨髄系のCD13,33が陽性、Tリンパ系のCD7が陽性を示すことでとても複雑なことが特徴です。
形態診断には、形態学的に染色性の異なる芽球や突起物(通常はbleb,bud)の出現、複雑化するマーカーの検出が所見になります。



これから先のページでは、医療関係者の方々を対象に医療機器・体外診断薬等の製品に関する情報を提供しております。当社製品を適正に使用していただくことを目的としており、一部の情報では専門的な用語を使用しております。
一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承ください。

医療関係者の方は、次のページへお進みください。
(お手数ですが、「進む」ボタンのクリックをお願いします)