第53回 「マンスリー形態マガジン」 2015年9月号

『 振りかえってみるとそこには‥ 』(その2)

前 略

主任という肩書きを持って国立舞鶴病院へ異動しました。大阪病院の科長からは2年間の約束でしたが、古巣の大阪病院には後任者がいるため主任としてはもどれず、それ以外の国立病院への配置替えになることは認識しておりました。上層部の異動に伴うもので、どうも転勤システムの始まりであったということは後に聞かされました。現在は技師の専門職が人事に携わっていますが、科長(医師)に権限があったのは当時の人事だったのでしょうか。
丁度その頃、九州がんセンターの話が浮上し、がんセンターの勤務は昔からの希望でもあったものですから、大阪病院の科長を口説き落とし、また九州がんセンターの院長、副院長のご推薦も頂き、3年半の関西出兵後、九州管内(現九州ブロック)に骨を埋めることになります。
1979年8月、晴れて国立病院九州がんセンター臨床検査部血液室に勤務することになりました。
近畿と九州という異例の人事も重なり、4月の異動が8月に延びましたが、大阪時代に学んだ基盤をもとに血液内科、小児科の先生の指導を受け、特に小児科領域では全国的組織の小児がん白血病研究グループ(CCLSG)と九州山口白血病研究グループ(KYCCSG)の形態中央診断を18年ほど担当させて頂くことになります。九州がんセンターは、その後の経緯を含め20年ほど勤務することになりますが、臨床グループに参画させて頂いたことで“公文式応用編”としてまとめてみました。
1995年4月、国立小倉病院研究検査科血液室の異動になります。長すぎた九州がんセンター(15年)に別れを告げ、小倉では副技師長として勤務しました。小倉病院の検査科は元気のよいお姉さんたちに囲まれ、忙しくも明るい雰囲気で業務を遂行し、小倉の印象は“うちら陽気なかしまし娘”とでも言っておきましょう。
1997年4月、黒田官兵衛が築城し一世風靡した中津城のある国立中津病院研究検査科技師長として異動になります。本院は黒字経営にも拘わらず、3年半後には委譲という十字架を背負わされての勤務でした。
検査室は技師長含み8人の体制でしたが、6人の主婦の方々の仕事に取り組む姿勢やお人柄に触れ“ほんわかファミリー8”としてまとめてみました。
時は流れ2000年7月1日、中津市立市民病院に経営は変わり、皆さんは再雇用となり再スタートされました。 そして私は‥

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



著作権について

今回のねらい

今回は末梢血液像および骨髄像の細胞同定と光顕的診断に挑みます。
末梢血液像では類似細胞とPO染色による細胞同定とコメントを求める問題です。
骨髄像では成熟好中球や赤芽球の同定、また造血細胞か非造血細胞なのかに着眼し同定する問題です。
症例では血算値と骨髄像からいくつかの設問を掲げ、診断までのプロセスを考える問題です。

問題

末梢血液像の細胞同定をリストより選んで下さい。B.はPO染色標本ですが、コメントがありましたらうかがいます。

1-1<設問1> 選択

  • PB-MG ×1000

1-2<設問1> 選択

  • PB-MG ×1000

骨髄像の細胞同定をリストよりそれぞれ選んで下さい。

2-1<設問1> 選択

  • BM-MG×1000

2-2<設問1> 選択

  • BM-MG×1000

血算値と骨髄像から設問に答え下さい。

3-1血算値と骨髄像から設問に答え下さい。

  • BM-MG ×600

  • BM-MG ×600

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
末梢血液像の細胞同定です。MG染色とPO染色からの出題です。

【正解】

(CASE A) 1-④.単球、2-②.異型リンパ球(CASE B) 1-③.単球、2-①.桿状核球、3-②.分葉核球

【解説】

(PB-MG ×1000)
(CASE A)
1.細胞径24μmの大型で、N/C比は低く、核形不整は軽度、核網工は繊細、細胞質は弱い好塩基性に空胞がみられることより単球に同定しました。また、細胞質には染色性が異なる二重構造(上半 分と下半分)がみられます。通常、単球は核の周囲に微細なアズール顆粒が集まり、周辺との間に染色性の有意な差がみられ、私は二重構造として単球の特徴的所見としております。
2.細胞径20μmの大型で、N/C比は低く、核はほぼ円形、核網工は粗剛、細胞質は弱い好塩基性がみられることよりリンパ球を思わせます。類似する1.と異なる点は、大きさはやや小さく、核網工は粗剛であることで、それに細胞質の弱好塩基性のポイントより異型リンパ球に同定しました。
(PB-MG ×1000)
(CASE B)
1.細胞径16μm大で、核形は顕著な不整で桿状を呈し、核網工はやや繊細で、細胞質は灰青色で空胞がみられます。核質は好中球に類似しますが、細胞質の所見より単球に同定しました。
単球のPO染色は前単球から染まりはじめ単球も含め陰性から弱陽性を呈しますが本細胞は陰性です。
2.細胞径15μm大で、核形は桿状を呈し、核網工は粗剛で僅かにクロマチン結節がみられます。
PO染色が陽性のことも加味し桿状核球に同定しました。
3.細胞径13μm大で、核糸を認めることより3分葉の分葉核球に同定しました。
【コメント】
コメントとしては、3.の好中球にはPO染色が染まっていませんので、PO陰性好中球の形態異常として報告することになります。本例はMDSの例です。



問題 2

(正解と解説)
骨髄像の細胞同定です。造血細胞と非造血細胞の出題です。

【正解】

(CASE A) 1-④.桿状核球、2-⑤.分葉核球、3-①.好塩基性赤芽球、4-②.多染性赤芽球(CASE B) 1-③.正染性赤芽球、2-②.多染性赤芽球、3-⑥.組織好酸球、4-④.リンパ球

【解説】

(BM-MG ×1000)
(CASE A)
1.細胞径13μmで、核は湾曲しやや太めの棒状やバナナ状を呈し、クロマチン結節を僅かに認め、細胞質は淡い好酸性の色調を示すことにより桿状核球に同定しました
2.細胞径13μm大で、核にはくびれがみられ、それは核の最小幅が最大幅の1/3未満であり、細胞質にはやや多めの二次顆粒を有する分葉核球に同定しました。
3.細胞径18μm大で、核は円形で中心性、核網は粗顆粒状、細胞質は強度の好塩基性がみられます。前赤芽球に類似しますが、やや小型で核小体がみられず、細胞質に突起などを有しないことより好塩基性赤芽球に同定しました。
4.細胞径12μm大の小型で、核は円形で偏在性(通常は中心性)、クロマチンの結節は強度で、細胞質は多染性の色調のことより多染性赤芽球に同定しました。
(BM-MG ×1000)
(CASE B)
1.細胞径12μmの小型大で、核は円形で偏在性(通常はやや中心性)、クロマチンは濃縮していることより正染性赤芽球に同定しました。本細胞の偏在性は脱核への進展も考えられます。
2.細胞径14μm大で、核はやや偏在性(通常は中心性)、クロマチン結節は強く、細胞質は多染性の色調より多染性赤芽球に同定しました。
3.細胞径30μm大の大型で、核は偏在し、核網工はやや繊細で、細胞質は辺縁が不規則性で好酸性の顆粒が豊富です。一見、幼若好酸球に類似しますが、核質や辺縁の不規則性などより血液細胞というよりも非造血細胞として捉え組織好酸球に同定しました。
4.細胞径12μm大の小型ですが、周囲の赤血球に押された感もあります。核網工は粗剛のことよりリンパ球に同定しました。



問題 3

【正解と解説】

(BM-MG ×600)

(BM-MG ×600)

本例は血清ビタミン(Vit.B12)30pg/mL(基準240-940)、葉酸6.2ng/mL(基準2.4-9.7)でした。
また、胃全摘術が施行されており、神経症状は認めませんでした。

設問1. 貧血の分類を行なって下さい。
(回答)貧血の分類には、①成因による病態生理学的分類と②赤血球指数による分類があります。後者から攻めれば、MCV127fL、MCH43.7pg、MCHC34.4%になりますので、MCVとMCHCより大球性正色素性貧血になります。

設問2. 骨髄像の細胞所見を述べて下さい。
(回答)骨髄の低倍率がありませんが、赤芽球系が優位でした。赤芽球に巨赤芽球変化がみられ、顆粒球系に巨大化(桿状核球・後骨髄球)や過分葉(好中球)がみられます。これらの形態異常は核のDNA合成障害が考えられます。巨赤芽球性変化については、成熟乖離(核の遅延減少)が発生していることになるので、それを捉えるには成熟赤芽球の形態像を観察する方が判りやすいよいようです。

設問3. 検査所見に求めるものは何ですか。
(回答)Vit.B12葉酸胃内の抗壁細胞抗体抗内因子抗体など、一般的な溶血検査、血清鉄、TIBC、染色体・遺伝子検査(二系統の形態異常より)など。

設問4. 臨床所見に求めるものは何ですか。
(回答)頭痛・めまい・息切れ・易疲労感・眼瞼結膜蒼白(貧血症状)、舌炎舌乳頭萎縮(消化器症状)年齢不相応な白髪神経症状(しびれ・深部知覚障害など)、萎縮性胃炎胃全摘または異亜全摘術の履歴など。

設問5.予測される疾患を複数上げてみて下さい。
(回答)巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群(MDS)など。

設問6. 最も考えられる疾患は何ですか。
(回答)本例は、胃全摘術が施行されており、Vit.B12の低値がみられたことより、Vit.B12欠乏による巨赤芽球性貧血が考えられ、胃全摘術後のVit.B12欠乏性貧血と診断されました。
ただ、胃全摘術の5~6年後には悪性貧血を発症するといわれ、自己免疫が関与する内因子分泌不全が原因で貧血症状、消化器症状、神経症状がみられます。本例も悪性貧血の状態が考えられるようです。
双方ともに形態異常としては、Vit.B12の欠乏によるDNAの合成障害が起こり、巨赤芽球や巨大顆粒球や過分葉好中球などが出現します。



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