第51回 「マンスリー形態マガジン」 2015年7月号

『 振り返ってみるとそこには‥ 』(その1)

前 略

1968年3月、名古屋保健衛生短期大学( 藤田保健衛生大学)の1期生として巣立った私の履歴を振り返ってみますと、退職まで7回の病院勤務を経験したことになります。
病院の機能や規模に大小はありましたが、特色のある施設ばかりで、私の感じたことをシリーズにまとめ少し振り返ってみたいと思います。
1968年4月、衛生検査技師としてスタートはしたものの将来の方向は定まらず、不安の日々を過ごしたのが福岡県久留米市にある古賀病院検査室の勤務でした。しかし、院長、事務長をはじめ職員の温かいふれあいによってそれは払拭され、何よりも民間の病院における経営方針や患者さんの接遇など数多くのことを学び、厳しさのなかにも実に“アットホーム”的な印象を強く感じました。それはその後の国立病院での勤務に大いに活かされることになります。
1975年12月、国立大阪病院血液検査室に採用され公務員としてスタートをきることになりました。
その時代、天下の大阪病院といわれるほど、強力なスタッフとその業績は目をひくものばかりで、“ルーチンは5時まで、リサーチは5時から‥“(私語)と言わんばかりにお互いがライバルとして戦う姿は「戦国大阪の乱」そのものでした。特に毎朝行われる血液検査室の抄読会は、和文、英文の輪読会、症例の検討など、私には苦しい日々でしたが、今日の大きな基盤になりました。
そして、29歳にして初めての学会発表を経験することになります(後便で紹介します)。
この時代、すでに4年生卒を目指す動きがあり、某大学の二部に入学した技師もみられ、私も大阪に骨を埋めるつもりでおりましたが、国立が抱える転勤システムに乗せられ、2年の大阪生活から1978年4月、京都府の国立舞鶴病院血液検査室へしぶしぶ出向することになります。
国立舞鶴病院は2年間の約束と主任という肩書を戴きましたが、結局1年半にして祖国九州へ異例の人事異動となります。この続きは次回に‥。

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 

大好きな野球に目覚めた頃 愛称「ケンちゃん」
大好きな野球に目覚めた頃
愛称「ケンちゃん」



著作権について

今回のねらい

今回は末梢血液像および骨髄像の細胞同定と診断に挑みます。
細胞同定には共に正常なものから見逃してはいけないものを提示してみました。
症例には同様の貧血症を提示しましたが、赤血球形態が異なることが意味するものは何か、そして必要な検査は何か、はたまた鑑別を要する貧血症は何かを考察していただきます。

問題

末梢血液像の細胞同定をリストより選んで下さい。

1-1<設問1> 選択

骨髄像の細胞同定をリストより選択して下さい。

2-1<設問1> 選択

2-2<設問1> 選択

貧血症の二症例から設問にお答え下さい。

3-1貧血症の二症例から設問にお答え下さい。

【症例1】45歳.女性 RBC 385万/μL、Hb 9.5g/dL、Ht 31.5%、WBC 4800/μL、PLT 32.4万/μL
【症例2】14歳.女児 RBC 318万/μL、Hb 4.9g/dL、Ht 17.1%、WBC 4100/μL、PLT 40.2万/μL
同様の貧血症と診断されましたが、末梢血液像の形態像を下記に示します。

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
末梢血液像の細胞同定です。ここでは、リンパ球と単球の鑑別を出題しました。

【正解】

1-②.リンパ球、2-②.リンパ球 

【解説】

1.は細胞径30μm大の大型で、N/C比は低く、核は類円形で核形不整はなく、核網工は粗剛、細胞質は有尾状の淡青色に微細顆粒を有することより大リンパ球に同定しました。
形状と微細顆粒は単球に類似しますが、核網工の粗荒と淡青色の細胞質の所見はリンパ球に近いと思いました。ただ、正常型でないことは事実で治療中のものです。
顆粒については、特に顆粒球系では二次的変化を取りやすいため、核網工を最優先に同定した方がよいと思われます。
また、異型リンパ球については、細胞質の好塩基性が弱いこととアズール顆粒を有することで除外しました。ただ、異型リンパ球にもまれに顆粒を認めることはあります。
2.はそれに比べ小型になり、核網工は粗剛で淡青色の細胞質に僅かに突起を認め、1.と同様にリンパ球に同定しました。1.と2.とも正常型ではなさそうですが疾患名は不明です。



問題 2

(正解と解説)
骨髄像の細胞同定です。赤芽球を中心としたものを出題しました。赤芽球は分化・成熟に伴い細胞質の色調によって命名されているようですので、成熟に伴う核とのコンビネーションを図りながら分類することになります。そのなかで、DNA合成障害によって核のみの発育が遅れることが生じますが、これが巨赤芽球の出現になるわけです。

【正解】

(CASE A) 1-⑥.リンパ球、2-④.正染性赤芽球、3-②.好塩基性赤芽球 (CASE B) 1-③.多染色性赤芽球、2-④.正染性赤芽球、3-⑤.巨赤芽球

【解説】

(CASE A)
1.細胞径15μm大のリンパ球(中型)ですが、僅かにアズール顆粒を認めます。
2.3.は赤芽球になりますが、2.はかなり小型で、核は濃縮状(pyknosis)、細胞質は好酸色なことより脱核寸前の正染性赤芽球に同定しました。
3.は細胞径20μm大で、核は円形で中心性、核網工はやや粗剛気味ですが、強度の好塩基性を呈することより好塩基性赤芽球に同定しました。3.の2個はお互いに核糸が見られることより分裂直後がうかがえます。
(CASE B)
1.と2.は細胞の大きさからみれば正常と思われます。核の成熟度および細胞質の色調を加味すると、1.は細胞質のヘモグロビンが旺盛な多染性赤芽球、2.はそれより小型で成熟度が増し、細胞質は赤血球に近い色調を呈していることより正染性赤芽球に同定しました。
3.はそれらと異なり、細胞径26μm大の大型です。細胞質の色調は正染性赤芽球ですが、核網工はそれに比し繊細であることより、成熟乖離現象(核の遅延)が発生した巨赤芽球に同定しました。尚、豊富な細胞質には好塩基性斑点がみられ、標本作製時の乾燥や染色の過程でリボソームが凝集してみられるといわれます。



問題 3

【正解と解説】




(設問1)
症例1.はMCV81.8fL、MCHC30.1より小球性低色素性貧血になります。

症例2.はMCV53.8fL、MCHC28.7より小球性低色素性貧血になります。
(設問2)
症例1.は形状が円形の菲薄赤血球(leptocyte)が主体のようです。これは淡明部(central pallor)が1/3以上を示すことで低色素性を意味します(正常は1/3未満)。

症例2.も菲薄赤血球を中心に、さらに奇形赤血球もみられます。

従って、両者とも赤血球の形態所見から小球性低色素性貧血が疑われます。

では、症例1.と2.の形態の違いが意味するところは何かを考えましょう。

それは体内の総鉄量の変化にあると思われます。総鉄量は約4gとされ、そのうち2/3はヘモグロビン鉄で、1/3は貯蔵鉄(フエリチン)とされます。貧血が発生し、症状が乏しい状態では赤血球形態には変化はみられませんが、貧血の進行に伴い、まず貯蔵鉄が減少し始めると赤血球は小球化し、貧血が重症化するにつれ貯蔵鉄は枯渇し、ヘモグロビン鉄も著減すると奇形赤血球が出始めることが予測されます。
(設問3)
赤血球指数や赤血球形態より小球性低色素性貧血を考えると、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)・不飽和鉄結合能(UIBC)、血清フエリチン、Fe染色で可染鉄または不可染鉄の証明などが必要になります。
(設問4)
貧血状態と赤血球形態の異常より小球性低色素性貧血のなかでも鉄欠乏性貧血を考えます。それには血清鉄減少、TIBC・UIBCの増加、血清フエリチン減少、不可染鉄の証明が診断に有効になります。臨床的には、息切れ、易疲労感、スプーン爪、口角炎、嚥下障害などが考えられます。
(設問5)
鑑別疾患は、①慢性疾患に伴う貧血(ACD)、②鉄芽球性貧血、③サラセミアなどです。



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