前 略
私が、以前勤務していた九州がんセンターでは、3つの医用画像データベース(消化器、乳腺、血液)とがん患者さまとご家族、さらに医療従事者に向けた「癒し・憩いの画像データベース」を日々更新し、日本や海外にむけて発信しております。
「癒し・憩いの画像データベース」は、四季の花々、懐かしい風景、水の流れ、名所・旧所、自然と動物など約19万点の美しい画像や動画が紹介されており、患者さまはいつでも自由に閲覧できるようになっています。このデータベースでは、“癒し・憩い”を7つのテーマに分け、ご自身にあった“癒し・憩い”を見つけることが出来ます。
また、日本人は万葉の時代から花鳥風月を楽しみ、季節の移ろいや時の流れを言葉に託して自分自身や人生を写し出したりしたものです。そこには、日本人が持つ特別な感性が息づいています。
例えば、木枯らし、五月雨、曙、夕映え‥など季節の移ろいや時の流れを表した言葉がありますが、特に四文字からなるこれらの言葉には風情や趣を強く感じます。また、4文字の言葉は、人の呼吸と発声のリズムが最もマッチしており、また、それに濁音があるとより五感に感じる余韻を与えてくれます。
師走は、一年で最も季節の移ろいを感じ、その情景が美しい季節です。皆様も少し立ち止まって、季節に四つの文字を重ねてみませんか? きっと温かな “癒しと憩い”を感じることが出来ると思います。
我が家の庭に念願の“しだれ梅”が引っ越してきました。来年の花咲く頃、私も縁側で4つの文字を重ねて季節を感じてみたいものです。
草々
形態マガジン号キャプテン 阿南 建一
我が家のしだれ梅
癒し憩い画像データデース
(http://iyashi.midb.jp/)
今回は、前回に続き、末梢血液像の赤血球形態と骨髄像のPAS染色の陽性細胞について挑戦します。
赤血球の形態異常を正確に判読することは、貧血症の診断につながりますので大変重要です。これらの形態異常は、その発現機序や考えられる疾患、また鑑別診断について習得をいたしましょう。
また、PAS染色法は、キットによる染色法が普及していますが、その染色性から自家製法1) を推奨します。PAS染色は主としてグリコーゲンを染めますので、多くの正常細胞にも陽性を示し、腫瘍細胞については陽性態度の判定が重要となります。
CASE 1~6における末梢血液像の赤血球形態から優位とされる異常所見をリストより選択してください。
PB-MG×1000
PB-MG×1000
PB-MG×1000
PB-MG×400
PB-MG×1000
PB-MG×1000
Case 7-10における骨髄のPAS染色像から陽性細胞の同定をリストより行ってください。
BM-PAS×1000
BM-PAS×1000
BM-PAS×1000
BM-PAS×1000
(CASE 1) 2. 有口赤血球
(CASE 2) 5. 楕円赤血球
(CASE 3) 7. 人工産物
(CASE 4) 6. 鎌状赤血球
(CASE 5) 4. 破砕赤血球
(CASE 6) 3. 涙滴赤血球
(CASE 1)
赤血球の中央淡明部が長方形に変形し、まるで唇をわずかに開いて微笑んでいるような形状で、これらを有口赤血球(stomatocyte)と言います。変形する機序は不明ですが、遺伝性溶血性貧血では多数出現し、血球内の陽イオン濃度の変化(Naの増加、Kの減少)によるものと言われております。また、アルコール性肝障害でも出現します。
(CASE 2).
正常赤血球に混じり、卵円形や棒状の赤血球が見られますが、これらを楕円赤血球(elliptocyte)と言います。発生する機序は、赤血球膜の骨格を構成する主要タンパク分子の欠損や分子間の結合異常によるものと言われております。遺伝性楕円赤血球症ではこれらは出現します。
(CASE 3)
これらの赤血球は、一見楕円状を呈していますが一定の方向に向いていることから、これはアーテイファクト(人工産物)として捉えます。CASE2.の楕円赤血球と比較してください。
(CASE 4)
正常赤血球に混じり、三日月状の赤血球が見られますが、これらを鎌状赤血球(drepanocyte)と言います。発生する機序は、ヘモグロビンSが脱酸素状態(deoxy HbS)に陥ると分子が連結し、偽結晶化してゲル状となり、鎌状に変形します。これらにより細血管閉塞や臓器梗塞、血管外溶血を来し、予後不良となる場合があります。
鎌状赤血球形成試験:血液1滴にNa2S2O4とNa2HPO4の混合液(還元剤)を添加し、カバーグラスの周囲をワセリンなどで封入し、低酸素状態にすることで鎌状赤血球を確認できます。
(鎌状赤血球形成試験*))
*) 三輪史朗 血液検査 臨床検査技術全書3 医学書院 1982年
(CASE 5)
正常の赤血球に混じり、断片化した赤血球が見られます。これらを破砕赤血球(schizocyte)と言います。発生する機序は、細胞に限界以上の外力が加わり、赤血球膜は伸展せずに引き裂かれますが直ちに閉鎖する性質のため、ヘモグロビンは漏れ出ることなく、断片化赤血球として末梢血に出現します。
細小血管障害性溶血性貧血、遺伝性楕円赤血球症(赤血球膜の脆弱性によるもの)、人工弁置換後などで出現します。
(CASE 6)
正常の赤血球に混じり、“しっぽ(涙の滴)”のような赤血球が見られます。これらを涙滴赤血球 (dacryocyte)と言います。発現する機序は、脾臓での脱核時に生じた塑性変形の名残りと言われ、同様の変化は、ハインツ小体が脾臓で摘除される場合にも見られます。髄外造血が盛んな病態、ハインツ小体形成性貧血(不安定ヘモグロビン症、G-6-PD欠乏症など)で出現します。
(文献.松本昇:ベーシック形態検査-赤血球.574~580.
Medical Technology.医歯薬出版.1988)
PAS (periodic acid-Schiff reaction)反応はグリコーゲン、ムコ多糖類などを検出するものであり、血球細胞に認められる陽性物質の多くはグリコーゲンとされます。陽性物質は、グリコーゲン消化試験に陰性化します。下記の提示細胞は、自家製にて染色を施したもので市販品(キット)より染色性は良好です。
(CASE 7)
PAS染色で点状に染まったALLのリンパ芽球です。リンパ芽球の全てには染まりませんが、点状や塊状に染まった場合、有効となります。ALLではB細胞性の方がT細胞性よりも陽性率は高く(80%以上)、診断的ポイントは高いようです。リンパ芽球の分化過程を推測するには、表面マーカーで確認します。
(CASE 8)
PAS染色でびまん性に染まった成熟赤芽球です。赤芽球の陽性態度は、幼若型は顆粒状、成熟型はびまん性に染まります。また、正常赤芽球よりも腫瘍性赤芽球に染まる傾向があります。
本例はMDSの症例ですが、貧血症では鉄欠乏性貧血、β-サラセミアの一部に染まることがありますが、通常では陰性のため、MDSの判定には効果的です。
(CASE 9)
PAS染色でびまん性に染まった微小巨核球(右)です。微小巨核球は、小型で骨髄の普通染色では見逃しやすいのですが、PAS染色の強度な陽性態度が同定に一役買うことになります。
(CASE10)
PAS染色で(細)顆粒状に染まった単芽球です。骨髄芽球や単芽球には通常染まりませんが、染まった場合はこのような顆粒状となります。従ってリンパ芽球の点状~塊状の陽性態度は、リンパ芽球を強く支持する所見となります。
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