第130回「マンスリー形態マガジン」2022年2月号

『長崎から世界へ、病原体研究拠点(BSL-4)の始動』

  2021年7月、わが国の感染症共同研究拠点である長崎大学坂本キャンパス内に感染症の基礎研究および応用研究(ワクチンや治療法の開発)を目的とした高度安全実験施設(BSL-4施設)が竣工しました。BSL(biosafety level)とは、実験施設の安全機能のレベル(1~4に分類)を意味し、最もレベルの高いものがBSL-4です。BSL-4施設では、エボラウイルス病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、へニパウイルス感染症などの感染能力が高く、かつ有効な治療、予防法がない病原体にも対応できる安全性を備えた施設で20数か国60施設以上が設置されています。国内では感染症の診断と治療を目的とした国立感染症研究所(東京都武蔵村山市)が唯一のBSL-4施設で、不活化されたウイルス遺伝子のみを利用していますが、長崎大学のBSL-4施設は日本で初めて生きた病原体を対象とする研究施設になります。このBSL-4施設では、万一の国内発生に備え、BSL-4病原体が引き起こす感染症の確定診断や治療法、ワクチンや治療薬の開発などが行われます。

  また、長崎はこれまでの歴史的経緯から国際都市として発展してきました。一方、出島を経て海外からもたらされたコレラ、麻疹、天然痘、インフルエンザなどの新たな感染症の脅威にさらされ、その中で1857年長崎医学伝習所(後に小島養生所:現長崎大学医学部)が設立され、感染症の治療や予防と教育・医療活動を行ってきました。これらの感染症研究は、現在も長崎大学医学部や長崎大学熱帯医学研究所に引き継がれています。

  近年、さまざまな新しい感染症が報告されています。1981年HIVウイルスが引き起こすエイズに始まり、1998年ニパウイルス感染症、2003年SARS、2003年以降では鳥インフルエンザのヒトへの感染などが報告され、また、エボラ出血熱、ラッサ熱を含め、世界各地で新興感染症が継続的に出現しています。ヒトやモノの移動が活発化し、社会・経済のグローバル化が進む今日では、どこかの地域で発生した感染症が短期間で世界中に感染拡大し、蔓延する危険性が高まっており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、まさしくその典型例です。

  今回、 長崎大学に竣工されたBSL-4施設が未知の病原体に対し、感染症拠点として世界を牽引する感染症研究の成果を創出されることを期待したいと思います。


形態マガジン号キャプテン 阿南 建一


MAPSS-DX-202202-20


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今回のねらい

今回の細胞編は、骨髄像において鑑別を要する細胞を出題しました。周囲の細胞と比較しながら同定してみて下さい。
症例編は、今回も乳児例ですが、経過を追ってお考えください。末梢血、骨髄標本のMG染色、EST二重染色を提示しています。特徴的な形態所見もみられるようですので、僅かな検査情報と臨床所見を加味して形態診断に挑んでください。

問題

問題1

1-1<設問1> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-2<設問2> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-3<設問3> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-4<設問4> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

問題2

2-1<設問> この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。 また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。

【生後2カ月】  在胎38週・帝王切開出産、生後3日に哺乳力低下、肛門周囲に発赤、肝脾腫を認めた。
[初診時] WBC 11,900/μL(Neutro.7%, Mo.21%)、RBC 193万/μL、Hb 6.1g/dL、Ht 20.1%、PLT 2.3万/μL、BM-NCC 24.5万/μL、
[2歳時] WBC 4,100/μL(Neutro.2%)、[3歳時] WBC 246,900/μL

  • 【診断時】 PB-MG.400

  • 【診断時】 BM-MG.400

  • 【2歳時】 BM-MG/PAS.1000

  • 【3歳時】 BM-MG/EST二重.1000

解答・解説

問題 1

骨髄の細胞同定を行ってください。

【正答】

今回も骨髄における紛らわしい細胞の鑑別について挑戦します。
A-1.多染性赤芽球、2.リンパ球、3.芽球
B-1.前骨髄球、2.前単球
C-1.骨髄球、2.前骨髄球、3.単球、4.単球、5.多染性赤芽球
D-1.桿状核球、2.後骨髄球、3.リンパ球、4.多染性赤芽球、5.後骨髄球

【解説】

A-1.細胞径9μm大、一見正染性赤芽球を思わせますが、核は偏在しクロマチンの凝集塊が僅かにみられ、細胞質は多染性の色調から多染性赤芽球と思われます。
A-2.細胞径12μm大、核はほぼ円形でクロマチン網工は粗荒、細胞質は淡青色で散在性のアズール顆粒を認めることから顆粒リンパ球と思われます。
A-3.細胞径25μm大、核は類円形で、クロマチン網工は繊細で核小体を認め、細胞質は顆粒が存在するなかアウエル小体(矢印)を認めることから腫瘍性の芽球と思われます。

B-1.細胞径30μm大、核は円形で偏在しクロマチン網工はやや粗剛で核小体を認め、細胞質は弱好塩基性で粗大顆粒を有することから前骨髄球と思われます。
B-2.細胞径30μm大、核はほぼ円形で中央に位置し、クロマチン網工は繊細で核小体を認め、細胞質は弱好塩基性で微細顆粒を有することから前単球と思われます。類似細胞ですので、核の位置、核質、顆粒の大きさの違いに着目します。

C-1.細胞径15μm大、核はほぼ円形でクロマチン網工は粗剛で凝集塊がみられ、細胞質は淡褐色で小さめの顆粒を認めることから骨髄球と思われます。
C-2.細胞径18μm大、核は偏在しクロマチン網工は顆粒状で核小体を認め、細胞質は弱好塩基性で小さめの顆粒を有し、一見骨髄球を思わせますが、核の偏在、核質の所見から前骨髄球と思われます。
C-3.4.細胞径16μm大、クロマチン網工はやや繊細で核形不整が顕著なことから単球と思われます。
C-5.細胞径7μm大、核は円形でクロマチンの凝集を認め、細胞質は多染性の色調から多染性赤芽球と思われます。

D-1.細胞径15μm大、核は棒状(バナナ様)でクロマチン網工は粗剛、核幅の短径が長径の1/3未満の長さから桿状核球と思われます。
D-2.細胞径17μm大、核形は1.に類似していますが、クロマチン網工の粗剛が弱く、核幅の短径が長径の1/3以上の長さ(小宮法.1988)から後骨髄球と思われます。
D-3.細胞径17μm大、核はほぼ円形でクロマチン網工は粗荒、細胞質は淡青色からリンパ球と思われます。
D-4.細胞径9μm大、円形核のクロマチンには凝集塊がみられ、細胞質が多染性から多染性赤芽球と思われます。
D-5.細胞径17μm大、核幅の短径が長径の1/3以上の長さ(小宮法.1988)、また両側陥没が1μmまで(私見)から後骨髄球 と思われます



問題 2

この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。

【生後2か月】  在胎38週・帝王切開出産、生後3日に哺乳力低下、肛門周囲に発赤、肝脾腫を認めた。
[初診時] WBC 11,900/μL(Neutro. 7%, Mo. 21%)、RBC 193万/μL、Hb 6.1g/dL、Ht 20.1%、PLT 2.3万/μL、BM-NCC 24.5万/μL
[2歳時] WBC 4,100/μL(Neutro. 2%)
[3歳時] WBC246,900/μL

生後2か月の正規出産児で、生後3日目に哺乳力低下、肛門周囲に発赤、肝脾腫を認めました。
CRPは20.4mg/dLと上昇し、肛門周囲の炎症部よりpseudomonous aeruginosa が検出されました。

【解説】

  • 【診断時】 PB-MG.400
  • 【診断時】 BM-MG.400
  • 【2歳時】 BM-MG/PAS.1000
  • 【3歳時】 BM-MG/EST二重.1000

A.診断時[末梢血-MG] 大球性貧血(MCV104.1fL)、白血球数増加(11,900/μL)、白血球分類は好中球7%(833/μL)、単球21%(2,499/μL)で好中球の著減と単球の増加を認めました。
B.診断時[骨髄-MG] 骨髄は正形成(24.5万/μL)で、リンパ球の増加に伴い顆粒球系の著減がみられます。リンパ球は全般に小型が多く、一部に大型がみられました。
C.2歳時[骨髄-MG/PAS] 二核の幼若顆粒球(左)と好塩基性赤芽球(右)を認め、成熟赤芽球にPAS染色の陽性がみられ、軽度に単球の増加(右下)がみられました。
D.3歳時[骨髄-MG/EST] 貧血は進行し白血球数は246,900/μLと著増、分化型の単球系の腫瘍性増殖がみられ、単球系はブチレートESTに陽性でした。


【臨床診断】

本例の経過として、診断時から次第に白血球数は4,100/μLと減少傾向となり、好中球数は82/μLとさらに著減し、皮膚感染、扁桃炎、尿路感染、肺炎などを繰り返し、抗菌剤、G-CSFが投与されました。
2歳8か月頃より、肝脾腫、リンパ節腫脹を認め、輸血を必要とする貧血、血小板数の減少、形態異常がみられ、  染色体検査で7モノソミーを認めたことからMDS-RAと診断されました。
3歳4か月には白血球数が著増(246,900/μL)し、AML-M5b様が考えられました。
乳児で好中球の著減(100/μL未満)が目立ったことから先天性無顆粒球症(Kostmann症候群)を疑い、MDS期を経て急性白血病(AML-M5b様)へ移行したものと診断されました。
重症先天性好中球減少症の遺伝子変異は4型に分類され、Kostmann症候群はHAX1変異による常染色体劣性遺伝とされますが本例は検索されておりません。
本例以外に急性単球性白血病へ移行した3例を経験しておりますので注意が必要と思われます。

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