みなさま、ユニコーンという幻の生き物をご存知でしょうか。ユニコーンは、一角獣とも呼ばれ、額の中央に“一本の大きな角”が生えている白い馬に似た生き物とされています。このユニコーンは、英国の国章にライオンと共に描かれていますのでご覧になった方もいらっしゃると思います。また、ユニコーンの角には水を浄化し、毒を中和するという不思議な効能があり、あらゆる病気を治す力があると言われて、中世のヨーロッパでは、このためにユニコーンの角が高価な特効薬として取引されていました。しかし、誰も見たことがない生き物の角が何故流通していたのでしょうか。答えは、北極海に生息している「イッカク」の牙をユニコーンの角と偽って売買していたからだそうです。
「イッカク」は、クジラ亜目イッカク科に属し、オスの体長は約5m(角を除く)、体重1600kgくらいで、北極海域(カナダ、グリーンランド、ロシアなど)に生息し、オスには長い角がみられ、長さ3m、重さ10kgに達する個体もあるようです。尚、生息数は約4~5万頭程度であると報告されています。「イッカク」は、俊敏で活動的な哺乳類でタラを主な餌とし、5~10頭程度の群を作り、生息しています。また、繁殖期には雄同士がこの大きな牙(角)を使って争いますが、互いの角の長さや持ち上げた角度で勝敗を決めているようです。尚、「イッカク」は、潜水が得意で1000m程度の深海まで下降することができるそうです。
日本ではほとんどお目にかかることがない「イッカク」ですが、江戸時代にオランダ商人を通じて「イッカク」の角がユニコーンの角として輸入されたそうです。また、当時の百科事典『和漢三才図会』にも掲載されており、オランダ人による北極捕鯨誌などをもとにユニコーンの伝説だけでなく、その正体である「イッカク」の生態や詳細な骨格なども紹介されていました。ところで、何故、中世ヨーロッパの人々は、争うように偽薬であったユニコーンの角を買い求めたのでしょうか。当時のヨーロッパでは、赤痢、インフルエンザ、麻疹、ハンセン病などの伝染病が断続的に流行していましたが、人々に最も恐れられたペスト(黒死病)の流行では放置するとほぼ全員が死亡し、英国やイタリアでは人口の8割が亡くなったそうです。このように感染症を発症することは直接死を意味し、人々はすがる思いで幻のユニコーンの角を手に入れようとしたのではと思います。
現在、世界で猛威をふるっている新型コロナウィルス感染症は、断続的に感染拡大を続けております。国内では、減少傾向にあるようですが終息の目途は立っておりません。特効薬を持たない私たちは、それぞれが今しばらく静かな生活を過ごすことで現代の黒死病に打ち勝ちたいと思います。
北極海に住むイッカクさんの親子ってこんな感じかな !?
(イラスト:H.EMIKOさん.2021.6.6)
形態マガジン号キャプテン 阿南 建一
今回の細胞編は、骨髄像において鑑別を要する細胞を出題しました。周囲の細胞と比較しながら同定してみてください。
症例編は、70歳代で、末梢血、骨髄標本のMG染色を提示しています。特徴的な形態所見がみられるようですので、僅かな検査情報と臨床所見を加味して形態診断に挑んでください。
問題1
BM-MG.1000
BM-MG.1000
BM-MG.1000
BM-MG.1000
問題2
【70歳代】 主訴:全身倦怠感、出血傾向(鼻出血・眼底出血)
WBC 2,200/μL、RBC 251万/μL、Hb 7.7g/dL、Ht 27.1%、PLT 8.0万/μL、BM-NCC 4.2万/μL
PB-MG.400
PB-MG.400
BM-MG.1000
LN-MG.400、LN-MG.1000
問題 1
骨髄の細胞同定を行ってください。
【正答】
今回も骨髄における紛らわしい細胞の鑑別について挑戦します。
A-1.多染性赤芽球、2.分葉核球、3.前骨髄球、4.桿状核球
B-1.リンパ球、2.芽球、3.4.多染性赤芽球
C-1.前骨髄球、2.前骨髄球、3.多染性赤芽球、4.桿状核球
D-1.正染性赤芽球、2.5.多染性赤芽球、 3.リンパ球、4.分葉核球、6.単球
【解説】
A-1.細胞径9μm大、円形核はやや偏在しクロマチンは網工は凝集状、細胞質は狭く多染性のことから多染性赤芽球と思われます。
A-2.細胞径14μm大、核はくびれてクロマチン網工は結節状のことから低顆粒気味の分葉核球と思われます。
A-3.細胞径15μm大、楕円形核は偏在しクロマチン網工は顆粒状、細胞質の好塩基性は軽度のことから低顆粒気味の前骨髄球と思われます。
A-4.細胞径13μm大、核は陥没し桿状様でクロマチン網工は結節状のことから桿状核球と思われます。
B-1.細胞径12μm大、円形核のクロマチン網工は粗荒、細胞質は淡青色のことからリンパ球と思われます。
B-2.細胞径は15μm大、円形核のクロマチン網工は繊細で核小体を認め、細胞質は好塩基性のことから芽球と思われます。
B-3.4細胞径10μm大、円形核はやや偏在しクロマチンは凝集状、細胞質は多染性の色調のことから多染性赤芽球と思われます。
C-1.細胞径20μm大、類円形核は偏在しクロマチン網工は顆粒状で大きな核小体を有し、細胞質は好塩基性のことから前骨髄球と思われます。
C-2.細胞径15μm大、核は偏在しクロマチン網工は顆粒状、細胞質の好塩基性は軽度のことから低顆粒気味の前骨髄球と思われ、1.を分裂前の大きさとすると2.は分裂後かも知れません。
C-3.細胞径8μm大、円形核はクロマチン網工が凝集状、細胞質は多染性のことから多染性赤芽球と思われます。
C-4.細胞径12μm大、核は桿状様のことから桿状核球と思われます。。
D-1.細胞径7μm大、円形核はクロマチンの濃縮がみられ、細胞質が正染性のことから正染性赤芽球と思われます。
D-2.5.細胞径8μm大、円形核のクロマチン網工は凝集状、細胞質は多染性のことから多染性赤芽球と思われます。
D-3.細胞径8μm大、裸核状のリンパ球と思われます。
D-4.細胞径12μm大、核にくびれがあることから分葉核球と思われます。
D-6.細胞径16μm大の大型、核形不整が顕著でクロマチン網工は繊細、細胞質は灰青色のことから低顆粒気味の単球と思われます。
問題 2
この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。
【70歳代】 主訴:全身倦怠感、出血傾向(鼻出血・眼底出血)
WBC 2,200/μL、RBC 251万/μL、Hb 7.7g/dL、Ht 27.1%、PLT 8.0万/μL、BM-NCC 4.2万/μL
高齢の患者さんで、汎血球減少を指摘され精査のため骨髄検査が施行されました。現症として出血(鼻出血・眼底出血)、肝脾腫、リンパ節腫大を認めました。
【解説】
A.[末梢血-MG] MCV108fLの大球性貧血で、赤血球に連銭形成がみられ、リンパ球は60%で増加傾向でした。中型のリンパ球には核の偏在がみられ、クロマチン網工は粗荒でした。
B.[骨髄-MG] 骨髄はdry tapで、リンパ球は72%と増加していました。
C.[骨髄-MG] リンパ球の多くは核が偏在し、僅かながらに形質細胞(矢印)がみられました。
D.[リンパ節捺印-MG] 小型~中型リンパ球の増殖がみられ、核偏在のリンパ球が優位でした。
【臨床診断】
リンパ節で腫瘤形成のリンパ球は骨髄に浸潤し白血化の状態で、各部位にみられるリンパ球は核が偏在しクロマチン網工は粗荒で、細胞質の好塩基性は弱く、形質細胞とは異なる形態でした。
形態像からリンパ形質細胞様を疑い、免疫電気泳動ではIgMに相当する部分に異常沈降線が認められ、単クローン性蛋白IgM(λ)が証明されました。免疫グロブリン定量では、IgMは1,680mg/dLと増加し、ベンス・ジョーンズ蛋白は陰性で、リンパ形質細胞リンパ腫(原発性マクログロブリン血症)と診断されました。
本例で産生されるIgMは、五量体の巨大な高分子であることからマクログロブリンとも呼ばれ、これが過粘稠度症候群を起こし、出血症状、神経障害、視力障害、心不全、Raynaud(レイノー)現象を生じます。通常、IgMは3,000mg/dL以上と言われますが、この限りでない症例もあるようでWHO(2008)では、IgM量よりも細胞形態を重視しているようです。リンパ球の形態とIgMの大量増加は多発性骨髄腫との鑑別になります。
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