長崎市沖に位置する長崎市高島町の端島(はしま)は「軍艦島」と呼ばれ、2015年7月、世界文化遺産に登録されました。「軍艦島」の由来は、当時の日本海軍の軍艦「土佐」に島の形が似ていたことにあるようです。この「軍艦島」は、元々小さな瀬と岩礁を1897年(明治30年)から始まった6回の埋め立て工事により3倍ほどに拡張され、南北に480m、東西に160m、面積は6.3ヘクタールの人工島として完成されました。造成された目的は、良質で豊富な石炭が採掘されたことによるもので1974年(昭和49年)閉山するまで海底炭鉱の町として繁栄していました。
「軍艦島」には、1960年代(昭和35年)の最盛期に約5,300人の島民が暮らしており、その人口密度は、約83,600人/1㎢ で当時の東京都の9倍にもなり、世界一の人口密度になっていました。一方、島民の暮らしは高い労働賃金のために大変豊かで、鉄筋コンクリートの高層マンションをはじめ、小中学校や寺院、警察署に役所、病院、市場、映画館など全ての生活基盤が完備されていました。島内の家庭には、1960年頃(昭和30年)からはじまった家電ブームでさまざまな電化製品が揃えられ、まだ国内では珍しかったテレビの普及率も100%になっていました。また、これまで島民の生活を悩ませていた水の確保は、1957年(昭和32年)日本初の海底水道が完成することで解消され、人々は、アパートの屋上に屋上菜園を作り、草花や野菜を育てることで狭い土地を有効に活用していました。
このように、「軍艦島」は、高い生活水準と国内よりもはるかに整備された社会インフラなどから理想郷として取り上げられることも少なくありませんでした。また、密集した生活環境の中で島民たちは助け合いながら家族同様な付き合いをして暮らしており、特筆すべきことは、まったく犯罪が発生していなかったそうです。
小さな理想郷として繁栄し、近代日本の基盤を築いた「軍艦島」は、国内のエネルギー政策の転換から約84年の歴史に幕がおり、1974年に閉山されました。その後、無人島になった「軍艦島」は、近代化日本の遺産として、また、廃墟ブームによりマスコミに取り上げられたことと島の所有権が長崎市に移管される中で上陸ツアーが可能になり、多くの方が訪れるようになりました。島内の施設は、荒廃が進み保存状態がよくないものもありますが、当時の面影を知ることができるようです。
現在、新型コロナ感染の終息が見通せない中、「軍艦島」での共に助け合い、気付き合う生活スタイルこそが、新型コロナ感染の撲滅に求められることだと思う今日この頃です。
長崎市から眺めた「軍艦島」の全貌軍艦「土佐」に似ていたことから名付けられました。
(資料:長崎県観光連盟)
島は一部整備され緑が復活し、
南西部(右)が見学エリアになっています。
(資料:長崎県観光連盟)
形態マガジン号キャプテン 阿南 建一
今回の細胞編は、骨髄像において鑑別を要する細胞を出題しました。周囲の細胞と比較しながら同定してみてください。
症例編は、小児で、末梢血、骨髄標本のMG染色、PO染色、PAS染色、ACP染色を提示しています。形態的所見に特徴的なヒントがあるようですので細胞化学染色も参考に診断づけてください。また、形態診断に不可欠な検査所見や鑑別疾患についても考えてみてください。
問題1
BM-MG.1000
BM-MG.1000
BM-MG.1000
BM-MG.1000
問題2
【小児例】 主訴:リンパ節腫大
WBC 37.8万/μL、RBC 431万/μL、Hb 15.0g/dL、Ht 47.8%、PLT 12.2万/μL、BM-NCC 168.6万/μL
PB-MG.400
BM-MG.1000
BM-PO.1000
D:BM-PAS.1000、E:BM-ACP.1000
問題 1
骨髄における紛らわしい細胞の鑑別について挑戦します。
【正答】
A-1.骨髄芽球、2.組織球
B-1.芽球、2.後骨髄球、3.分葉核球
C-1.マクロファージ、2.前赤芽球
D-1.桿状核球、2.前骨髄球、3.形質細胞、4.正染性赤芽球、5.リンパ球
【解説】
A-1.細胞径15μm大、核は軽度の不整がみられ、クロマチン網工は繊細気味、細胞質は好塩基性でもあり骨髄芽球としました。
2.細胞径25μm大、豊富な細胞質は空胞を有し辺縁は不規則で異物を貪食しているようで、大きさは単球より大きいことから組織球としました。
B-1.細胞径15μm大、核は類円形で偏在し、クロマチン網工は粗顆粒状で核小体もみられるようで、細胞質は弱好塩基性で特徴とされる顆粒は少ないようですが前骨髄球にしました。
2.細胞径20μm大、3個の細胞は同系であり、細胞質は好塩基性が豊富で核偏在が強いようです。形質細胞に類似していますが、クロマチン網工は繊細で細胞質の辺縁が不明瞭、ゴルジ野が核周囲から離れて位置し造骨(骨芽)細胞としました。
C-1.細胞径13μm大、核は円形で中心性、クロマチン網工は粗荒で凝集塊がみられ、細胞質は紫紅色のことから多染性赤芽球を考え、大きさが12μm以上で大型の多染性赤芽球としました。
2.細胞径10μm大、核、 細胞質所見は1.と同等ですが小型(12μm未満)のことから正常型の多染性赤芽球としま した。
D-1.細胞径16μm大、核は円形でほぼ中心性、クロマチン網工は粗顆粒状、細胞質は好塩基性のことから好塩基性赤芽球としました。
2.細胞径16μm大、核は分葉し、クロマチン網工は粗荒で結節状、細胞質は低顆粒気味の分葉核球としました。
3.細胞径11μm大、核は円形で、クロマチン網工は粗荒で凝集塊がみられ、細胞質は一部不染部がみられるも紫紅色であることから多染性赤芽球としました。
4.細胞径22μm大、核はほぼ円形で、クロマチン網工は繊細顆粒状、核小体はクロマチンに隠れて僅かにみえ、細胞質の好塩基性は強度であることから前赤芽球としました。細胞質の濃青色はポリゾーム(RNAに富むリボソームの集塊)を大量に保持し、一部の明色域(矢印)はポリゾームに乏しい領域と思われます。
問題 2
この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。
【小児】 主訴:リンパ節腫大
WBC 37.8万/μL、RBC 431万/μL、Hb 15.0g/dL、Ht 47.8%、PLT 12.2万/μL、BM-NCC 168.6万/μL
問題には小児と記載しましたが、正確には10歳代の男児で、全身倦怠感を主訴に来院されました。リンパ節腫脹と前縦隔腫瘤を指摘され、白血球数の著増(37.8万/μL)から骨髄検査が施行されました。骨髄は過形成(168.6万/μL)で芽球の増殖がみられました。
【解説】
A.[末梢血-MG] 白血球数著増の血液像で、芽球は90%、分裂像(矢印)や核影がみられました。芽球は小型~中型でN/C比が高く、クロマチン網工はやや粗荒で核小体は不明瞭、何よりも核形不整を有する芽球が散見されました。
B.[骨髄-MG] NCCは、高度の過形成で芽球はほぼ100%と増殖していました。芽球の形態は、末梢血と同様に核縁の浅い陥没(青矢印)がみられ、なかには顕著なもの(赤矢印)までみられました。また、周囲には分裂像や核影も認めました。
C.[骨髄-PO] 芽球はPO染色に陰性で、EST染色も陰性でした。
D,E.[骨髄-PAS/ACP] 芽球はPAS染色に陰性で、酸ホスファターゼ(ACP)染色に限局性の陽性を認めました。
【臨床診断】
この患者さんは、10歳代で縦隔腫瘤を認め、白血球数の著増はT細胞腫瘍を疑う所見であり、形態的に核形不整や核分裂像はT細胞の増殖性を示し、さらにACP染色の限局陽性はT細胞を証明する所見となります。これまでの経験から核形不整の形態は、核幅が広く浅い陥没を呈することが多いようです。類似の形態を示す濾胞性リンパ腫では、核幅が狭く核中心性に深い切れ込みを呈するようです。免疫形質では、CD3、CD7の発現やT細胞受容体β鎖遺伝子再構成を認めT細胞性腫瘍を疑い、骨髄浸潤、白血化の病態からTリンパ芽球性白血病/リンパ腫と診断されました(WHO分類.2008)。
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