2015年10月13日掲載

Vol.1血球計数測定とコールター原理

CBCを語ろう Talk CBC まずは、血球計数の基礎。コールター原理とその歴史からです。

血球計数測定の歴史は古く、19世紀半ば頃から血球の算定が始まり、当時は光学顕微鏡を用いた視算による算定が行われていました。この後、メランジュール、計算板などの分析器具の考案や改良と安定した状態で計測を行うために希釈液や染色液の開発がなされ、視算による血球算定は検査法として正確性を確立することになっていきました。しかしながら、視算での血球算定には、いくつかの問題を内在していました。まず、第一に熟練した手技が必要とされ、均一な標本作製や細胞数のカウントには一定の練度が求められました。第二に標本作製から血球算定までの過程は用手法であり、計測までに多くの時間を要しました。第三として標本の不均一性やカウント数などから算定された結果は精密性を欠いていました。


1953年10月Wallace H. Coulter(図1)は、“溶液中に浮遊する粒子を計測する”理論の特許を取得しました。この理論は後に「コールター原理」と呼ばれ、粒子の数と体積を計測する代表的な測定法として確立されていきました。
「コールター原理」(図2)とは、電解溶液中に浮遊させた粒子がアパチャー(細孔)の感応領域を通過する際、電極間の電気抵抗値が増加し、電気パルスの変化が生じます。この電気抵抗値の変化量は、アパチャーを通過する粒子の大きさ(体積)に比例しますので、電気パルスの検出・増幅を行うことにより粒子の計測と体積測定が可能となりました。
この「コールター原理」では、粒子の体積変化量(3次元)に基づいて血球測定を行っているため、細胞形状の影響を受けにくく、当時の光学的測定法に比べてはるかに高い精度で体積計測が可能となりました。


WallaceとJosephの兄弟は、今回考案した測定原理を搭載した血球計数装置の実用化を目指し、1956年に世界初となる血球計数器 コールターカウンター model A(図3)を開発しました。このコールターカウンター model Aは、シンプルで小型に作製されており、真空管ラジオと同程度の大きさから実験台にも設置が可能でした。


コールターカウンターmodel Aは、2つのユニットから構成されており、1) 試料を測定するアパチャーチューブを搭載したサンプルスタンド部と2) 電気パルスの検出・増幅のための電子回路を内蔵した本体部となっていました(図4ダイアグラム参照)。この装置を用いた血球算定は、血液を50,000倍に希釈してサンプルスタンドにセットし、計測は約15秒で完了します。毎秒約6,000個の赤血球がガラス製アパチャーチューブに設けられた100μのアパチャー(細孔)を通過し、電気パルスがオシロスコープに表示され、1マイクロリットル中の細胞数を計測することが可能でした。 コールターカウンター model Aの誕生によって、従来視算での血球算定におけるさまざまな課題が解消され、現代の血球計数装置と同程度の精度で血球算定が可能となりました。また、当初は赤血球数の算定しか行うことができませんでしたが、血球計数装置用の希釈液や溶血剤の開発とそれぞれの血球の特性を踏まえた測定法から白血球数、平均赤血球容積や血小板数などの自動算定が可能になりました。臨床検査分野では第二次大戦後の経済成長と医療状況の変化により、臨床検査における検査オーダーの需要が拡大され、従来の用手法検査は自動化の時代に移行をしていくことになります。(続く)



引用文献

  1. 西村敏治:検査の変遷と将来展望(12) 血球計数の変遷と展望. 医学検査 48(1):1-10 1999
  2. 西村敏治:最新統合型血液分析装置の機能. 臨床病理レビュー (126):9-16 2003
  3. 巽典之:3.機器.自動血球計数の基礎. 厚生社19-44 1991
  4. 三輪史朗ほか:Ⅰ.総論 4.血球計数法 血液検査(第1版第6刷) 医学書院 61-80 1982

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