2017年8月11日掲載

第66回日本医学検査学会・ランチョンセミナー

Vol.39AMH、卵巣予備能を知るマーカー

浅田レディースクリニック 浅田氏が講演

Vol.39:第66回日本医学検査学会・ランチョンセミナー  AMH、卵巣予備能を知るマーカー

浅田氏 第66回日本医学検査学会のランチョンセミナー「AMH検査の基礎と実際~AMHと女性のライフプラン~」(共催:ベックマン・コールター)が6月18日、千葉市内で開かれた。浅田レディースクリニック(名古屋市)理事長の浅田義正氏が講演し、アンチミューラリアンホルモン(AMH)について「卵巣予備能を知るマーカーであり、全自動化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)の登場により測定精度が向上したことから、女性の人生設計に生かしてほしい」と述べた。司会は、国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター副センター長の齊藤英和氏が務めた。

齋藤氏 AMHは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモン。浅田氏は、「血中のAMH値は原始卵胞から発育する前胞状卵胞数を反映すると考えられる」と述べ、AMH値が卵巣の中に残っている卵子の数がどのくらいかを示す卵巣予備能を反映していると解説した。
 AMHは胎生6週以降に胎児精巣のSertoli細胞から分泌され、アンドロゲンとともにミュラー管の退化を促し、男性生殖器を形成する。性腺が未分化な時期の内性器には男女ともウォルフ管とミュラー管があるが、男性はAMHによりミュラー管が退縮し、アンドロゲンの作用でウォルフ管が発育して精巣上体、精管、精嚢へ分化する。
一方、女性ではAMHの影響を受けないためミュラー管は退縮せず、子宮、卵管、膣上部に分化して女性生殖器を形成し、ウォルフ管はアンドロゲンの作用を受けないため退縮する。
 また、女性では妊娠の32週頃の胎児の卵巣でAMHが発現する。AMHは前胞状卵胞と小胞状卵胞の顆粒膜細胞から分泌され、主に原始卵胞から一次卵胞への発育を調節する役割を持つ。原始卵胞は卵巣の中に蓄えられ、一部が随時発育していき、成熟卵胞になり排卵して黄体になる。AMH値は原始卵胞から発育する卵胞の数に比例することから、卵巣予備能の指標となり、月経周期には大きく左右されない(表)。

表 AMHの働き

AMHは妊娠予測のマーカーではない

 AMHについて浅田氏は、「妊娠の予測には使えない」「卵・胚の質の予測に使えない」「正常値がはっきりしない」ことを挙げ、「AMHは役に立たない、AMH値は測っても無駄だ」という意見があるが、卵巣予備能の推測には現在AMH以上に有用なものはなく、その特性を知って活かしていきたい、とした。原始卵胞が初期卵胞から小胞状卵胞、前胞状卵胞に発育していく中で、AMH値が高ければ原始卵胞も多いと推測可能で、AMH値は卵子数の目安を示す卵巣予備能検査として有用であると考えられ、項目特性を正しく理解することが大切であるとした。すなわち、AMHは調節卵巣刺激後の採卵数と相関するが、卵の質は年齢と相関するため、妊娠の予測の指標ではないとした。
 また、卵子と妊娠の仕組みについて浅田氏は、非常に誤解が多いこととして、①月経があるうちは妊娠が可能②月経が始まってから卵子はできる③いくつになっても妊娠率、流産率は変わらない④妊娠は自分の努力次第でなんとかなる⑤体外受精は万能を挙げ、これらは全て間違いであるとした。不妊治療を行う患者に対して、これらの誤解を指摘し、「卵子は老化する」「卵子は減少する」「年齢とともに妊孕(にんよう)性(妊娠のしやすさ) が低下する」「妊娠は個人差がある」ことを説明した上で治療を始めているという。
 男性の精巣について浅田氏は、「精子をつくるところ。精子は年をとらない。常に3カ月ぐらい前から作られた新しい細胞である」と説明。一方、卵子は、「生まれる前に卵子ができており、女性の卵巣は、卵子を保存するところ。卵子は年齢と同様に時間が経過し、年をとる」と述べた。
 卵子(原始卵胞)は、女性の胎生6カ月頃に500万~700万個と最大になる。しかし、出生時には200万個に減少し、生殖期には10万~30万個となる。35歳頃には2万~3万個程度まで減少し、生理のあるなし、排卵するしないにかかわらず卵子はどんどん減っていくという。
 また、妊孕性についても触れ、22歳をピークに年齢とともに下がり続け、40歳代後半でゼロになると説明した。浅田氏は、卵巣予備能の低下は、検査をしなければ分からず、自分では気付くことができない。女性は、閉経する約10年前にはほとんど妊娠できないことから、生理があっても、知らないうちに妊孕性はなくなっているという。

CLEIA法によりAMH値がより安定に

 海外での初のAMH測定用市販試薬は、1999年に市場導入されたフランスのイムノテック社(ベックマン・コールター社)の「EIAAMH/MIS」であり、その後2004年に米国のDSL社が「AMH ELISA」を発売し、それぞれELISA法で血清中のAMH が測定されていた。
 ベックマン・コールターが2005 年にDSL社を買収し、その後、それらの試薬を「AMHGen Ⅱ ELISA」として一本化した。しかし、ELISA法は用手法で検査を行うため手技間差・施設間差など変動係数が大きく、また、「AMH Gen Ⅱ ELISA」は補体の干渉の問題点を抱えていたが、その補体の影響については測定プロトコールの変更により2013年に改良された。
 ベックマン・コールターは、2014年に全自動化学発光酵素免疫測定装置用の試薬として「Access AMH」(国内では研究用試薬)を開発、販売を開始した。AMHを全自動で測定することが可能で、分析的感度が良好で、測定範囲が広く、検体量も少量で測定できる。測定時間は、従来のELISA法では3時間以上かかっていたが、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法では40分に短縮された。浅田氏は、低濃度域の感度・再現性にも優れることから、より安定した値が得られているとした。

図 Access AMH と年齢との相関 n=3101

 AMH値について浅田氏は、年齢との相関関係はゆるやかで、20代でも、30代でもAMHが高い人がいれば、低い人もおり、個人差が大きいと説明した。検査データからAMHと年齢の分布図(図)を作っても、標準偏差がとても大きく、まったく正規分布しないことを示し、基準範囲や正常値を設定することは困難とした。しかし、AMHを年代別にみると、年齢とともにAMHは減少する傾向がある。AMH値は、個人によって大きな差があるので、正常値を設定するのではなく、同じ年齢層に比べて、卵巣予備能が高いか低いかという視点で判断すべきとした。
 AMHは、卵巣内に残る卵子数の推測の目安となり、初期卵胞や発育卵胞の数を反映するだけでなく、卵胞の発育の早期の段階や成熟過程にも影響を及ぼす。浅田氏は、AMH値を測定して卵巣予備能を評価し、卵巣予備能にゆとりがあるうちに妊娠・出産するのがよいとした。
 閉経時、卵子は約1000個程度残っているとされ、AMH値がゼロでも卵子は何千個か残っている可能性がある。浅田氏は、残っている卵子をいかに有効に使うかを考え、カウフマン療法でいたずらに時間を過ごすのではなく、1~2年で結果を出さなければならないとした。AMH値を指標に、どのような治療でどの程度の期間行うかという適切な治療方針を立てることができるとした。

30歳になったらAMH検査を

 浅田氏は、AMH検査について、卵巣予備能の評価のほか、早発卵巣不全(早発閉経)の早期補助診断、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の補助診断、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク予知などにも活用できる可能性を示し、出産を考える女性の人生設計にも生かしてほしいと述べた。女性のよりよいライフプランを選択するためにも、生理不順がある場合や30歳を迎えたら、未婚・既婚にかかわらず一度は計測を行う価値のある検査とした。
 浅田氏は、「自分のAMH値を知ることで、自身の結婚、妊娠、子育て計画を作り、優先順位を決めて悔いのない自分の人生設計をしてほしい」と述べた。また、AMHがゼロであっても、健康には何の支障もないとした。AMH の測定法の進化により、月経周期による変動は小さいとされていたなかでも、AMH 比較的高い人では卵胞期 に高く、月経期に低い傾向があるという知見も得られてきている。今後、AMHの研究が進み、その有用性がさらに明らかになることを期待した。

(THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2017年8月11日 第1397号掲載)

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