2011年5月21日掲載

第99回日本泌尿器科学会ランチョンセミナー

Vol.5新たな前立腺腫瘍マーカー

「proPSA」臨床応用への可能性

Vol.2静岡県・総合病院 聖隷三方原病院「微量、高速、つかいやすさ」で質向上

診断精度維持と不要な生検回避両立への挑戦

前立腺がんのスクリーニングに優れた効果を示す前立腺特異抗原(PSA)検査─。1994年に「Tandem-R PSAキット」を用いて設定された、PSA4.0ng/mLという精密検査へのカットオフ値は、今なお臨床で用いられる基準値の1つである。群馬大大学院医学系研究科泌尿器科学の伊藤一人准教授は、4月22日の「第99回日本泌尿器科学会総会」教育セミナー(ベックマン・コールター共催)で講演。がん診断精度を維持しつつ、不必要な生検を可能な限り回避できる、前立腺がんにより特異的な新規マーカーとして近年注目を集めているPSAの前駆体である「proPSA」の臨床応用への可能性を探った。

群馬大大学院 准教授 伊藤 一人 氏
群馬大大学院 准教授 伊藤 一人 氏

proPSAは、前立腺の腺腔内に分泌され、プロテアーゼであるhuman kallikrein 2(hK2)によって活性型のPSAへと変換される。活性型PSAは、血中ではα1アンチキモトリプシンなどのプロテアーゼ阻害物質と結合し結合型PSAとして存在するが、一部は腺腔内でプロテアーゼ活性が喪失し、非活性型PSAとなり、血中では遊離型PSAとして存在する。
伊藤氏は「proPSAは、正常な前立腺組織内にも存在し、高度前立腺上皮内腫瘍(HGPIN)の中にもたくさんある」と説明。その上で、がん組織ではhK2濃度の低下により活性型PSAへ変換が阻害される結果、proPSAが貯留する可能性があるとの考えを示し、「とりわけ[-2]proPSAが蓄積しやすいと考えられている」とした。また、がん組織では微小血管浸潤により、proPSAの血中漏出が増加すると考えられているため、「理論的に考えてもproPSAはがん特異的なマーカーとしてより有用だとの期待がふくらむ」との認識を示した。

見逃し少なく、不要な生検も回避

伊藤氏は、前立腺がんの診断アルゴリズムにおけるproPSAの位置付けとして、2つの考え方を紹介。1つは、欧州泌尿器科学会(EAU)が公開している前立腺がんの予測ツール(ノモグラム)にproPSAやprostate health index (phi)などの血清学的な指標を加えることでがん予測精度をかなり改善することができると説明した。
さらにテーラーメード診断の可能性についても触れ、PSAをベースとするスクリーニングにproPSAなどの分子マーカーに関連する指標を組み込む考え方を説明した。伊藤氏によると、PSAが0~2ng/mLの場合、将来のがん罹患リスクを遊離型PSA/総PSA比(F/T比)を用いて判別し、PSAが0~1ng/mLで、F/T比25%超のケースでは5年ごと、F/T比25%以下のケースでは1年ごとに検診を受診する。また、PSA1~2ng/mLでF/T比18%超のケースでは3年ごとの検診、F/T比18%以下なら毎年検診を受けることが、より理想的である可能性があるとした。
またPSAが2~4ng/mLの場合、ラボベースのPSA関連指標の中で最も優れた値を示すphiを用いることは有用であると説明。phiが0~24なら毎年のPSA測定、phiが25以上の場合は、PSAが基準値以下であっても生検が必要な場合があるとした。その上で、伊藤氏は「PSAが基準値以下でも、phiを用いることによって、不要な生検をそれほど増やさずに、重要な前立腺がんの見逃しが少なくなる可能性がある」ことを示唆した。

生検適応症例がより正確に判別可能

第99回日本泌尿器科学会ランチョンセミナー

臨床における生検適応である基準値を超えるPSA4~10ng/mLの症例では、59歳以下の場合、前立腺肥大症(BPH)を合併している可能性が低いことからphiのような血清マーカーを、BPHが増加する60歳以上の場合は、前立腺総体積や前立腺移行領域で補正したproPSAを組み入れた指標(p2PSA/%fPSA TZD)を用いると、よりがん診断予測精度が上がる可能性があると説明。その上で、59歳以下で用いるphiが0~24なら半年ごとのPSA値モニタリング、25以上なら即時生検、60歳以上に用いるp2PSA/%fPSA TZDが0~3.8なら半年ごとのPSA値モニタリング、3.8以上なら即時生検を行うという判別指針を提案した。伊藤氏は「臨床現場では、PSA異常を示す症例の3分の1から半分程度が生検を受けているのが実態」だと指摘。proPSAのように、がんと非がんをより正確に判別できるマーカーが臨床現場に導入されれば、生検適用症例をより正確に判断できるとの考えを述べた。
通常、即時生検が必要と判断される事が多いPSA10.1ng/mL以上の場合、「PSA10~20ng/mLであってもがんが発症する確率は40%程度」(伊藤氏)であることから、10~20ng/mLでは大きなBPHの合併によるPSA値上昇の可能性を考慮して、前立腺体積で補正したPSA関連マーカー(phi density)を用いることは意義があると指摘。伊藤氏らがEAUで発表したデータを基に、phi densityが0~0.66では半年ごとのPSA値モニタリング、0.67以上では即時生検といったような指針が、将来の方向性として採用される可能性を示唆した。

(The Medical & Test Journal 2011年5月21日 第1158号掲載)

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  • 【Report】 初のPSA血液検査キット 『Tandem-R PSA』 を展示

    第99回日本泌尿器科学会「医学歴史・未来館」企画にて、 初のPSA血液検査測定キットである『Tandem-R PSA』が展示されました。

    「医学歴史・未来館」とは、日本の泌尿器科医療における礎となった英知(研究・技術・製品等)を アーカイブとして紹介するとともに、未来医療の胎動を感じさせる製品や新技術を展示するという企画でした。

    数多くの著名な展示物の中で『Tandem-R PSA』キットが今回展示されたのは、PSA測定キットの開発とその後 PSA検査が果たした医療への優れた貢献が評価されたものである事は疑いありません。 ちなみに、今回ベックマン・コールターが出品したこの外箱は、日本に1つしか残されていない貴重なものです。

    PSA検査は、現在世界中で広く行われ、前立腺がんの早期発見に役立っています。ベックマン・コールターは、PSA検査のパイオニアとして、更なる医療への貢献に挑戦していきます。

    PSA検査の基礎
    PSA検査についてはこちらもご参照ください。

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