第149回「マンスリー形態マガジン」2023年9月号

今月のコラム:『山笠を彩る初の女性人形師』

 福岡の夏を彩るユネスコ無形文化遺産の「博多祇園山笠」が4年振りに通常開催され7月15日(金)に閉幕しました。山笠782年の歴史なかで初めて女性人形師さん(70代)が舁(か)き山を制作されたことが話題になりました。舁き山(七流れ)の1つである“千代流(ちよながれ)”からの依頼を受けたもので、「日輪幸慶博多照」を題材に太陽の女神“アマテラス” (表側)を描き、実弟さんがアマテラスの弟、“スサノオ”(裏側)を担当するという姉弟合作の作品となりました。弟さん曰く、“女性の細かい部分までのこだわりがみられる” と述べられ、千代流の総務さんは女性の社会進出が叫ばれるなか、“山笠も時代に沿って変化が求められている” と話されています。

 女性人形師さんは、60年以上の経歴をもち内閣総理大臣賞を5回受賞されるほどの腕前で、博多人形師の父のそばで小学生の頃から山笠の手伝いをしながら、高校卒業後に本格的に父に師事し博多人形師、伝統工芸士としての地位を確立されました。山笠の制作は今年の4月から始まり、女性の太陽神アマテラスとしての華やかさとたくましさを意識するなか、眉毛はキリっとはね上げ、深紅のアイラインを強調し、力強いまなざしには慈愛をたたえているようです。“不安もありましたが、面白かった。今まで培ってきたことを生かせたと思う”と感想を述べられています。

 山笠の由来は諸説あるなか、鎌倉時代(1241年)に悪疫退散のために、聖一国師が施餓鬼棚から祈祷水をまいたことが起原とされます。現在は毎年7月1日の「飾り山」に始まり、7月15日の「追い山」に向けての神事が執り行われ、クライマックスとなる15日の早朝(午前4時59分)には今年の一番山笠が博多の総鎮守である櫛田(くしだ)神社で“博多祝い唄(いわいめでた)”を奉納し、順次山笠が境内入りを果たすと「追い山」が始まり薄暗い博多の街へ駆け出していきます。山笠の高さは3m、重さは1トンを超え28人の男衆が舁き“オイサ オイサ”の掛け声とともに、5kmを30分で奔(はし)る「追い山」の迫力は見逃せません。はちまき、水法被(みずはっぴ)、腹巻、締め込み、舁き縄、脚絆(きゃはん)、地下足袋の勇壮なスタイルも必見で、“山笠のあるけん博多たい”のフレーズは今も引き継がれています。

 私は10年ほど前に見物したことがありますが、ここ最近は早朝とあってもっぱらライブ配信で楽しんでおります。女人禁制が貫かれてきた伝統行事にも、時代に合わせた変化が始まっているようです。

 


  • 櫛田神社は「お櫛田さん」の愛称をもつ不老長寿、商売繁盛の神として篤い信仰を集めています。(撮影:阿南.2023.8.20)


  • 「櫛田入り」した一番山笠は博多祝い唄(いわいめでた)を唄って奉納します。(福岡市観光情報サイトより)


  • 女性人形師さんが制作した「太陽の女神・アマテラス」、深紅のアイライン、力強いまなざしに慈愛を感じます。(福岡RKBオンラインより) 


2023年8月号の問題.  下記の2つのご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【Q1】 小球性低色素性貧血の患者さんの血液像で菲薄赤血球を認めることはありますが、MCV54.2fLの患者さんで菲薄赤血球のほかに奇形赤血球を認めたのですが何か意義はあるのでしょうか。

【助言1】 ご提示例はおそらく鉄欠乏性貧血(IDA)と思われ、高度の小球性(MCV54.2fL)であることからMCHCも極端な低値が考えられます。
一般に小球性貧血はMCVが80fL以下とされ、ヘムの合成障害に伴い菲薄赤血球(中央淡明部が1/3以上)が増加するのが典型的なパターンですが、本例は奇形赤血球の混在がみられるということは生体内の鉄の動態を知る上に意義がありそうです。

【助言2】 体内の総鉄量をヘモグロビン鉄(ヘム)2/3、貯蔵鉄(フェリチン)1/3と推測すると、IDAの診断は血清中のフェリチン値の低下が重視されるように、体内でもフェリチンの減少が先行し、次第にヘムも減少していくことが考えられます。
そこで体内の総鉄量と赤血球形態の関係を鑑みると、フェリチンの減少では菲薄赤血球が増加し、続いてヘムの減少が起こると奇形赤血球が出現するようになり、それは貧血の症状の重症化を意味していることが推測されます。
従って、IDAにおける赤血球の形態異常を理解することは貧血の進行状況をうかがえるものと思われます。

【Q2】 外来の患者さんで血液疾患を全く疑ってなくて、血液標本上にBlast様細胞が1%以上認めた場合、担当医に連絡するようにしていますが、1%未満の場合は連絡せず、次の検査時まで様子をみることでよいのでしょうか。

【助言1】 末梢血液像の百分類で芽球様および異常細胞の1%未満の出現については、基準はなく単一(腫瘍性)であるかどうかを確認することや200分類に増やすことも一法かと思われます。
出現の割合に関係なく疑しい場合は、全視野をくまなく観察しその形態所見を報告することになりますが、血算値の変動にも注意を払う必要があります。

【助言2】 次の検査までの経過観察については、外来の場合、間隔が開きすぎると急転の可能性も考えられますので、異常所見については担当の先生に漏れなく報告するように心がけ、電子媒体はもとより電話での対応を切望します。

【助言3】 芽球様ならびに芽球(A.B.C:青矢印)の出現については、形態的特徴およびPO染色の陽性または陰性の所見も併せて報告することが重要かと思われます(D.PO陽性芽球:赤矢印)。



2023年9月号の問題.  下記の2つのご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【Q1】 小児のリンパ球は成人と同じ基準での分類でよいのか、また新生児の末梢血に芽球様や幼若細胞などが出現することを経験しましたが、分類に自信がありませんので教えてください。

【Q2】 ヘマトゴーンとはどのような細胞のことを言っているのでしょうか。また、どのような場合に出現し、その特徴はあるのでしょうか。

形態マガジン号キャプテン  阿南  建一

MAPSS-DX-202309-35

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今回のねらい

今回も末梢血液像を提示しますが、赤血球形態などにも少しずつ挑戦してみましょう。
「ワンポイントアドバイス」は、末梢血液像における鉄欠乏性貧血の捉え方や芽球様細胞の捉え方と報告について考えてみます。

問題

問題1

1-1末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

1-2末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

1-3末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

1-4末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

1-5末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

1-6末梢血液像の細胞同定を行ってください。(B.~F.は、赤血球の形態から出現機序や病態を述べてください)

  • PB-MG.600

解答・解説

問題 1

末梢血液像の細胞同定を行ってください (CとDは全体像から判定してください)

 

末梢血液像における赤血球の形態について述べてください。

【正答】

A.フイブリンの析出  B.二相性赤血球  C.球状赤血球  D.標的赤血球  E.破砕赤血球  F.涙滴赤血球


【解説】

A. 塗抹標本の中央部から横走りに複数の白い糸状の物質がみられフィブリンの析出と思われます。採血不良によるものが考えられますが、この周囲に血小板が付着することによって血小板数の偽低値をきたします。

B. 正球性と低色素性赤血球(菲薄赤血球)が混在したもので二相性(二形性)とよばれ、他に奇形赤血球もみられます。本例は小球性低色素性貧血の鉄芽球性貧血に出現したものでヘム合成障害によるものとされます。

C. 大小不同症で小赤血球には中央淡明部が少なく厚みが増し直径が減少した球状赤血球が多くみられます。正常に比し表面積/体積比が減少しているため変形能が悪く、浸透圧も低下しているため溶血が起こりやすいといわれます。本例は遺伝性球状赤血球症です。

D. 赤血球内のHbが中央部で小山をなし、周辺部に環状に分布するためにベル状や円形ドーム型と例えられる標的赤血球と思われます。正常に比し表面積/体積比が増加する病態でみられ、細胞膜にコレステロールが挿入されて膜過剰が生じる慢性肝疾患にみられたものです。標的赤血球はサラセミアでも出現しますが全体的に小型が多いようです。

E. 正常赤血球よりも小さく、細胞質は全身が引き裂かれたようで、その部分は鋭角の突起を呈し断片化赤血球を考えます。本例は血栓症が確認されたことから破砕赤血球としました。断片化してもヘモグロビンは全て漏れ出ることなく濃染性にみえることが多いようです。末梢血の0.5%以上は報告に値するとされます。

F. 赤血球の一部がしっぽのように伸びた赤血球は、まるで涙状を呈していることから涙滴赤血球と思われます。脾臓における脱核時に生じた塑性変形の名残りともいわれ、特に髄外造血の盛んな病態の骨髄線維症やがんの骨髄転移などでみられます。末梢血の1.0%以上は報告に値するとされます。

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