第148回「マンスリー形態マガジン」2023年8月号

今月のコラム:『一夜を謳歌する幸運の花』

 沖縄県石垣島の知人から「サガリバナ」開花のお便りが届きました。私は石垣島に4回ほど訪問したことがありますが未だお目にかかったことはありませんので、知人から送られた写真や資料をもとに紹介します。

 サガリバナを初めてお聞きした方もあるかと思いますが、アフリカや東南アジアなど、熱帯や亜熱帯気候に咲く花です。日本では奄美諸島や沖縄本島、石垣島や西表島をはじめとする八重山諸島や宮古島に限定してみられる希少の花とされています。花が木の枝から垂れ下がって咲くことからサガリバナと呼ばれ、別名サワフジ、クダリバナ、モウカハナともいわれます。サガリバナは年間を通して緑色の大きな葉が特徴ですが、沖縄では梅雨明けを迎える6月末頃から8月頃の夜間に花を咲かせ、その高さは15mにもおよぶそうです。夜9時頃から夜中の0時頃までに開花し、翌朝には落下してその生涯を終えます。一夜で散る花なんてなんだか切ないですね。林 芙美子氏の名句 “花の命は短くて苦しきことのみ多かりき”が思い出されます。

 もう少し深堀りしますと、マングローブや川の近くなどの湿地帯に自生して咲くのが特徴で、葉っぱの付け根から花茎が30cm位下に伸びて花が咲き、それは光ファイバー様ともいわれ、周囲の白色がオシベで中心の濃いピンク色がメシベで幻想的な雰囲気を醸し出します。石垣島のサガリバナはバニラのような甘い香りをしていて、花の咲く夜中には虫たちも集まってきます。受粉に成功した花は水辺に落ち、花茎には次の蕾があり今宵の開花を待つことになりますので期間中に途絶えることはなさそうです。開花前は沖縄の名産、海ブドウのようにもみえます。花言葉は“幸せが訪れる”のようで、花の咲く夜に訪れた人に幸運が訪れるともいわれます。

 石垣島のサガリバナの鑑賞スポットは田福農園と平久保群落などがありますが、車でのアクセスは田福農園が近いようです(新石垣空港から約20分)。農園ではライトアップは可能ですが、懐中電灯は必須でハブには注意が必要です。夜の楽園に広がる一瞬のドラマを味わってみては如何でしょうか。

 


  • 開花時の「サガリバナ」はバニラのような甘い香りを漂わせます。白色がオシベ、中心のピンク色がメシベで、まるで光ファイバーのようです。


  • 開花前は沖縄名産の海ブドウにも似ています。
    (撮影:比嘉華里さん.田福農園.2022.7.1, 22:30頃) 


2023年7月号の問題.  下記のご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【疑問】 末梢血液(EDTA添加)を室温に保存した場合、経時的に血球の形態変化が起こるといわれますが、一体何時間位から起こりますか。そして、どのような形態変化がみられ、細胞判定に与える影響は何かありますか。


2023年7月号の解説.
 
 

【助言1】 採血後の経時的変化については、細胞の変化像や非典型例として誤認されやすいため認識しておくことが重要です。
文献1)から検索しますと、白血球および血小板は3時間以内、赤血球は6時間以内に検体を処理することを推奨しています(表)。それを超えると、血球に形態変化が起こり、血小板では時間の経過とともに膨化し顆粒の染色性が低下します(表)。
リンパ球の核分葉化や好中球・単球の顕著な小胞(空胞)は経験することです。また、真空採血の採血不良においては過剰な陰圧やEDTAの高濃度によって赤血球の変形やMCVの高値が報告されています。

【助言2】 リンパ球の核分葉化については変性リンパ球として捉えるようにして、ATL細胞との鑑別が必要です。
変性リンパ球はクロマチンが粗剛で凝集状、核は上から押さえつけられたような平面的であり(図2-A)、一方、ATL細胞はクロマチンが緻密で濃染状、核は下から盛り上がったような立体的を呈することが多いようです(図2-B)。ATLを疑う場合は、抗HTLV-Ⅰ抗体やDNAプロウイルスを証明することです。

【助言3】 EDTA添加の末梢血液では、血液中のCaと結合することで抗凝固作用を示すことから血球に特に影響はないかと思われますが、室温保存することで容積は増大し、冷蔵保存では容積の縮小が考えられます。
また骨髄穿刺液にEDTAを添加すると、細胞委縮、核網の粗剛化、低顆粒などが起こることを経験しており、低顆粒についてはMDSやCMLとの鑑別を要することになります。

  • 表.  採血後の血球の経時的変化

    白血球:3時間以上
     好中球の核分離・リンパ球の核分葉
     細胞質の不整・小胞形成
    赤血球:6時間以上
     球状化~金平糖
    血小板:3時間以上
     顆粒の染色性劣下
    1)寺澤儀男氏:臨床検査禁忌マニュアル.
       Medical Technology,vol.29,No.13,2001

図. クローバー状のリンパ球

  • A. 変性リンパ球
     クロマチンは粗剛で核は平面的構造


  • B. 異常リンパ球(ATL)
     クロマチンは緻密で核は立体的構造



2023年8月号の問題.  下記の2つのご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【Q1】 小球性低色素性貧血の患者さんの血液像で菲薄赤血球を認めることはありますが、MCV54.2 fLの患者さんで菲薄赤血球のほかに奇形赤血球を認めたのですが何か意義はあるのでしょうか。

【Q2】 外来の患者さんで血液疾患を全く疑ってなくて、血液標本上にBlast様細胞が1%以上認めた場合、担当医に連絡するようにしていますが、1%未満の場合は連絡せず、次の検査時まで様子をみることでよいのでしょうか。

形態マガジン号キャプテン  阿南  建一

MAPSS-DX-202308-●

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今回のねらい

今回も末梢血液像に挑戦してみたいと思います。末梢血液像に出現する細胞はある程度限られますが、日常検査において様々な変化像が出現しますので見逃しのないように心がけることが大事です。
「ワンポイントアドバイス」は、末梢血液像に使用される抗凝固剤添加血液の経時的形態変化について取り上げてみました。形態診断の誤認を招きますので認識しておく必要があります。

問題

問題1

1-1末梢血液像の細胞同定を行ってください。

1-2末梢血液像の細胞同定を行ってください。

1-3末梢血液像の細胞同定を行ってください(全体像から判定してください)。

1-4末梢血液像の細胞同定を行ってください(全体像から判定してください)。

1-5末梢液像の細胞同定を行ってください。

1-6末梢血液像の細胞同定を行ってください。

解答・解説

問題 1

末梢血液像の細胞同定を行ってください (CとDは全体像から判定してください)

 

末梢血液像ですが、赤血球の形態については全体像から判定してください。

【正答】

A. 細胞の壊れ  B-1. 過分葉核好中球、2. 分葉核好中球  C. 赤血球の大小不同症  D. 小球状・微小赤血球 E. Howell-Jolly 小体  F. マラリア原虫の感染(生殖母体)



【解説】

A. 直径12μm大、核は抜けて細胞質のみが残存したようで単に細胞の壊れとして標本作製時のアーチファクトと捉えました。同様の核影は細胞質が壊れ核のみがみられる場合をいいますので異なるものと思いました。類似する血小板は、中心部の顆粒質や辺縁部の硝子質を認めないことから否定されそうです。

B-1. 直径13μm大、核は6分葉を呈していることから過分葉核好中球と思われます。
B-2. 核糸を認め3分葉核のことから分葉核好中球と思われます。5分葉核については、3%以上存在すれば過分葉とする考えもあるようです。本例は巨赤芽球性貧血に出現したもので右方移動が確認されました。

C. 正常の赤血球とそれより大きい赤血球が混在していることから大小不同症と捉えました。大きいものは12μm以上で巨赤血球を思わせ、一般に大赤血球症は9.5μm以上を指し、大小不同症の基準は30%以上(JSLH.2005)とされています。本例は悪性貧血に出現したものです。

D. 膨化気味の赤血球に紛れて、微小・屑様の赤血球や濃染性の小球状(丸印)がみられます。広範囲の熱傷と高熱による特徴的な形態所見と思われ粉砕赤血球として捉えています。

E. 赤血球内封入体のHowell-Jolly 小体と思われます。直径0.5μm大の円形で、通常1個の赤血球に1つ認めます。DNA合成障害によって核分裂時の染色体の一部が小体となったことが考えられます。周囲の涙滴赤血球(赤矢印)は、脾臓での脱核時に生じた塑性変形の名残が推測されます。

F. 熱帯熱マラリア原虫の感染にみらた生殖母体です。虫体は三日月様で先端が尖り、細胞質が青色を呈していることから雌性生殖母体と思われます。因みに雄性生殖母体は両端が鈍なソーセージ様で細胞質は淡い紅色に染まるようで、生殖母体は熱帯熱マラリア感染の診断に有効とされます。本例は親交深いタイ王国の臨床の先生から提供されたものです。

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