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4.パス(PAS)染色

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【原 理】
多糖類中のグリコール基が過ヨウ素酸によってアルデヒド基に変化するが、これにSchiff試薬中の塩基性フクシンが反応し、赤色または紫紅色の物質が形成される。グリコーゲンの他にムコ蛋白などもPAS(periodic acid Schiff)陽性となるが、グリコーゲンの場合は唾液(アミラーゼ)消化試験にて陰性となる。


【臨床的意義】
大きく2つに分かれる。@正常赤芽球は多くは陰性であるが、赤白血病やMDSに出現する腫瘍性赤芽球は陽性になりやすい。A各種白血病や腫瘍性疾患では染色性に差がみられる。
MDSと貧血症に出現する赤芽球において、MDSでは陽性像が高い頻度でみられるのに対し、貧血症では大半が陰性である。ただし、貧血症のなかで鉄欠乏性貧血やβサラセミアの一部には陽性を呈することがあるので注意を要する。小児ALLのなかで、CD10のcommon typeにPAS染色が陽性のものは予後がよいといわれている。また、腺癌細胞や横紋筋肉腫などでは強陽性に反応し、鑑別診断に有効となる。


【染色法】
PAS染色は、粘液質の証明法としてMcManus(1946)により考案され、その後Wislocki(1949)らにより血球の多糖類証明法として応用されるようになった。PAS染色陽性物質がグリコーゲンであるか、または他の多糖体であるかの鑑別にアミラーゼ消化試験がある。
ここではHayhoe変法について紹介する。


【ワンポイント】

  • 検体数にもよるが、過ヨウ素酸はできるだけ新調するように心がけること。
  • 各試薬とも50ml容量の染色壺に小分けし、冷蔵庫で保存、使用時に室温に戻し染色する。
  • Schiff試薬は市販のもので十分だが、ピンク色に変色した場合は取り替える。
  • 核染の色だしに、著者らは飽和炭酸リチウムを使用している。
  • 末染標本は室温で1年経過したものでも染色に十分に耐える。
  • すでにギムザ染色した標本をPAS染色する場合は、95%エタノールに浸し脱色した後、過ヨウ素酸前の操作から始めるとよい。
  • 封入した標本を長期保存すると陽性色に変化を来すことがあるので、スライドガラス横半分のみを封入する工夫も必要である。

■PAS染色(Hayhoe変法)

塗抹乾燥標本 
固定液 10%ホルマリン・メタノール
室温5分
水洗 
1%過ヨウ素酸 15分
水洗
Schiff試薬 室温60分
亜硫酸水 4分 2回(染色壺を2個用意しておく)
水洗 10分(正確に)
Gill's hematoxylin 10分
水洗
飽和炭酸リチウム 1分
水洗
乾燥
封入(グリセリン・ゼラチン)

[アミラーゼ消化試験]

塗抹乾燥標本
10%ホルマリン・メタノール
固定 5分
α-amylase* 1.0g+H2O 100ml
37℃ 60分
(*ヒトの唾液のほうがうまくいくことが多い)
PAS染色法1%過ヨウ素酸から実施

【陽性顆粒:鮮赤色〜紫紅色(びまん性、顆粒状)】


【PAS・染色判定法】
〈従来法〉
−顆粒状陽性の場合−

0型  陽性顆粒なし 
I型 鮮赤色の顆粒9個以下
II型 鮮赤色の顆粒9個以上環状配列
III型  鮮赤色の顆粒3列以上配列 
IV型 鮮赤色の顆粒集塊状

−びまん性陽性の場合−

0型 陰性 
I型 弱陽性
II型 中等度陽性
III型  強陽性

〈著者らの方法〉

  • 陽性所見なし
  • びまん性陽性(弱陽性、強陽性)
  • 微細顆粒状陽性
  • 粗大顆粒状陽性
  • 塊状陽性

A.PAS染色の急性白血病における診断的ポイント

図1 骨髄 PAS染色
図1 骨髄 PAS染色

[ALL(L1):B cell typeの症例]
本例のように粗大〜塊状の陽性態度を示す例はそうでない例に比べ予後がよい.判定上、陽性態度をA(びまん性)、B(細顆粒状)、C(粗大顆粒状)、D(点状、塊状)に分けるとC、D群に高い陽性率を示す方が予後が良い傾向にある.


図2 骨髄 PAS染色
図2 骨髄 PAS染色

[AML(M4Eo)の症例]
本例はM4Eoの症例である.3時の方向の好酸球は2個の細胞と比べると粗大顆粒状で陽性態度が強い.このように異常好酸球はPAS染色に顆粒状の強陽性を呈することが多い.


図3 骨髄 PAS染色
図3 骨髄 PAS染色

[AML(M5a)の症例]
本例はM5aの症例である.PAS染色は通常は陰性が多いが、陽性の場合は微細顆粒状陽性を呈する.1個の顆粒の大きさはリンパ芽球の陽性に比べると細くて小さい.骨髄芽球が陽性の場合も同様な陽性態度を示す.


図4 骨髄 PAS染色
図4 骨髄 PAS染色

[AML(M6)の症例]
AML(M6)として診断した症例であるが、増殖する異型性赤芽球(巨赤芽球様細胞)はPAS染色に染まりやすく、未熟型は顆粒状に成熟型はびまん性の陽性態度を示す.


図5 骨髄 PAS染色
図5 骨髄 PAS染色

[AML(M7)の症例]
M7の芽球増殖のなかに出現した小型骨髄巨核球であるが、細胞質一面に強陽性に示す.


図6 骨髄 PAS染色
図6 骨髄 PAS染色

[T-MDS AMLの症例]
初診時に3系統形態異常を伴ったAMLである.形態異常の一つである赤芽球系は巨赤芽球様で、しかもこのように成熟型にびまん性の強弱の陽性像がみられる場合は、腫瘍性としての性格がうかがえる.


B.PAS染色の転移性腫瘍にみられる診断的ポイント

図7 骨髄 (左)MG染色 (右)PAS染色
図7 骨髄 (左)MG染色 (右)PAS染色

本例はムチン産生旺盛な腺癌細胞の骨髄転移像である.PAS染色はムチン産生をうかがえるほどのびまん性の強陽性を呈した.本例は胃癌原発であり、一般に消化器原発の場合はこのように強陽性に染まる傾向にある.


図8 骨髄 (左)MG染色 (右)PAS染色
図8 骨髄 (左)MG染色 (右)PAS染色

本例は胎児型横紋筋肉腫の骨髄転移像である.本細胞は大型の空胞を有し、PAS染色に顆粒状ならびに塊状に強陽性を呈し、本例の診断的ポイントになる.


形態学からせまる血液疾患 阿南建一ら (株)岡山メディック、(株)近代出版 1999年


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