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3.エステラーゼ(EST)染色

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【原 理】
エステラーゼesterase(EST)とは、一般にエステル全般を分解する酵素の総称であるが、組織細胞化学的には、比較的単純な短鎖炭素結合の低級脂肪酸エステルに作用するエステラーゼ(非特異的エステラーゼ)と、比較的長鎖の炭素結合の高級脂肪酸エステルを分解するリパーゼ、コリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ(特異的エステラーゼ)とに分けられる。
反応原理はアゾ色素法であり、@naphtholの酢酸エステルの酵素が作用し、そのエステルを加水分解する。A分離したnaphtholとdiazomium塩をカップリングさせアゾ色素を形成し、酵素の局在部位に沈着する。
血液細胞化学に用いられるエステラーゼの基質は大半がnaphthyl esterであるが、用いる基質により各種の血液細胞の反応態度が異なるため、各種細胞の同定に利用されている。


【臨床的意義】
基質に特異的エステラーゼ、naphthol AS-D chloroacetate(NASDCA)を用いた場合は、主に前骨髄球から好中球までの顆粒球系細胞と肥満細胞が陽性となる。α-NAを用いた場合は、単球系、巨核球系、形質細胞がびまん性に強陽性に染まり、リンパ球の一部(CD4:helper T細胞)、幼若赤芽球においては粗大塊状に陽性をみる。特にPLL(CD4type)で塊状的に陽性をみる。
α-NBを用いると、単球系細胞に限られ顆粒状の陽性を示す。単球、巨核球系のエステラーゼ活性はNaFで阻害される。α-NBとNASDCAの二重染色を実施することで、AMMoL(M4)における顆粒球系と単球系の混在をより明確にできる。α-NAとα-NB(非特異的エステラーゼ)は単球性白血病に有効で、NASDCAは分化型急性骨髄性白血病に有効である。


【染色法】
ICSHは、α-NA法、α-NB法とNASDCA法の二重染色を推奨しているが、本邦で普及しているものと異なるものは発色剤にある。ICSHは、α-NB法ではhexazotized paraosanilineを、NASDCA法ではfast blue BBNを使用しているのに対し、本邦ではα-NB法ではfast garnet GBCを、NASDCA法ではfast blue RRを使用していることである。ここでは、本邦で普及しているα-NA法はLeder法を、α-NBとNASDCA二重染色法はLi-Yam法を紹介し、またICSHが推奨するリンパ球のための酸性エステラーゼ染色についてもふれる。


【ワンポイント】

  • 固定液を用いないので背景の赤血球は溶血するが、NB法に比べると陽性率は高い傾向にある。

  • (1)α-NAE染色
  • ■Leder法
  • 【陽性細胞:茶褐色(びまん性)】

  • (2)α-NB/NASDCA二重染色法
  • ■Li-Yam改良法
  • 【陽性顆粒:単球…茶褐色、顆粒球…青色、二重陽性細胞…青茶褐色】
    単球系陽性細胞はNaFにて阻害される

【エステラーゼ染色(α-NB)判定法】

0型  (−) 陽性顆粒の全く認められないもの
I型 (±) 陽性顆粒が約5個以内認められるもの
II型 (+) 陽性顆粒が数えられる程度(約30個)または局所凝集性を示すもの
III型 陽性顆粒が多数であるが不平等に分布するもの 
IV型 陽性顆粒が平等に分布するが間隙があるもの 
V型 陽性顆粒が密に充満するもの 

【ワンポイント】

  • 固定液のホルマリンは長期使用することで、細胞変性と染色の低下を引き起こすので固定液のチェックが必要となる。いらなくなった塗抹標本に固定液を満載し、血液の赤い部分が白く膜をはったようになれば新調する。
  • リン酸緩衝液は、使用時に室温に戻し、H2Oでさらに希釈することにより陽性態度の鮮明さが増す。
  • AMMoL(M4)やCMLでは両者に染まる二重陽性細胞hybrid cellがみられる。
  • M4のなかでα-NB法に陰性、α-NA法に陽性の場合があるため並行して実施することが望ましい。

  • (1)acid α-NAE(ANAE)法
  • 【原 理】
    基質にα-NAEとパラローズアニリンを組み合わせ、pHを酸性領域(pH5.2)にて反応させる
  • 【臨床的意義】
    リンパ球のsubpopulationの分類に有効で、正常および腫瘍性リンパ球の未熟型から成熟型までのTリンパ球は高率に局在性陽性を示す。
  • ■Jaffe法
  • 【陽性顆粒:茶褐色の点状〜塊状】
  • ■Kulenkampff法
  • 【陽性顆粒:茶褐色】

【エステラーゼ反応と陽性細胞】

方法 顆粒球系 単球系 巨核球系 Tリンパ球
プチレートエステラーゼ(α-NB) −  +〜  ±〜  −〜+ 
アセテートエステラーゼ(α-NA) −  +〜  +〜  −〜+ 
NAF阻害(有無)  −  +  +  − 
クロロアセテートエステラーゼ(NASDCA) +〜  −〜±  −  − 
酸性アセテートエステラーゼ −〜±  −〜±   

A.エステラーゼNaF阻害試験

図1 骨髄(ヒト)α-NB/NaF阻害試験
図1 骨髄(ヒト)α-NB/NaF阻害試験

骨髄(ヒト)α-NB/NaF阻害試験
(左)α-NB法にて病的単球に強陽性(茶褐色)を呈したAMoL(M5b)例.
(右)NaFを添加したα-NB法では、その陽性色は明らかに消失されることからNaF阻害試験陽性とされ、単球系細胞の証明となる.


B.エステラーゼ二重染色

図2 骨髄 α-NB/NASDCA二重染色法
図2 骨髄 α-NB/NASDCA二重染色法

[AML(M4)の症例]
単球系細胞はα-NBに顆粒状陽性(茶褐色)、顆粒球系細胞はNASDCAに顆粒状陽性(青色)を呈し、顆粒球系と単球系(two cell line)の混在が証明される.


C.α-NAE染色の陽性態度

図3 骨髄 α-NAE染色
図3 骨髄 α-NAE染色

[AML(M5b)の症例]
α-NA法にてびまん性の強陽性を呈した病的単球、背景の赤血球は溶血するが、経験的にα-NB法に比べ陽性率は高い場合が多い.


図4 骨髄 α-NAE染色
図4 骨髄 α-NAE染色

[正常骨髄像]
成熟した骨髄巨核球はα-NA法にびまん性の強陽性を呈する.一方、α-NB法には陰性か弱陽性を示す.


D.エステラーゼ染色によるリンパ球系への陽性態度

図5 骨髄 α-NBE染色
図5 骨髄 α-NBE染色

[ALL(L1)の症例]
まれにリンパ芽球に対しα-NB法にて顆粒状に陽性を示す場合がある.この様な場合単球との鑑別が必要となるが、それに比べると陽性態度は微細顆粒状の散在性に染まり、形態学的にも鑑別可能と思われる.


E.酸エステラーゼ染色

図6 リンパ節スタンプ
図6 リンパ節スタンプ

[NHL:びまん性、Tcell typeの症例]
リンパ節スタンプ標本にて増殖する腫瘍細胞が酸エステラーゼ反応に陽性を呈する.陽性態度は点状の限局性を示し、T cellを推測するものである.


形態学からせまる血液疾患 阿南建一ら (株)岡山メディック、(株)近代出版 1999年


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