第152回「マンスリー形態マガジン」2023年12月号

今月のコラム:『サンドアーティストの一期一会』

 福岡県の北部、関門海峡の北西に広がる響灘(ひびきなだ)を望む遠賀川(おんががわ)の河口に芦屋(あしや)町があります。響灘に面して延長1kmに広がる芦屋海岸の砂浜が有名です。その芦屋海浜公園レジャープール「アクアシアン」では、今年も10月27日(金)~11月12日(日)に「あしや砂像展2023」が開催されました。博物学者ジャン・アンリ・ファーブル(仏)の生誕200年にあたり、今回は「昆虫」がテーマとされました。国内外のトッププロの砂像彫刻家が集結し27基(作品)が展示されました。芸術性の高い作品はインスタ映えし夜間にはライトアップによって幻想的な砂像の姿が浮かびあがります。芦屋海岸の砂は決め細かく砂像に最適のようで、砂像の高さは約6m、27基の傑作には、ファーブルとゾウムシ(ベルギー.作)、甲虫と日本の森(イタリア.作)、フンコロガシ(日本.作)、世界の昆虫(日本.作)、カマキリの営み(オランダ.作)、ハチの世界(アメリカ.作)など、とても繊細で芸術性の高い作品は見ごたえがあります。

 砂像は日本では認知度が低かったようですが、2017年5月台湾で開催された国際大会にて日本サンドアーティストの保坂さんが制作された「宮本武蔵」の作品が最優秀賞を受賞されてからブームになっています。砂像は芯材を使用せず砂と水だけで作られ、表面に定着材を吹きかけて固めているそうですが、形が残るものでもなく“儚さ”を感じてしまいます。しかし、保坂さんは「自然の素材を使って自然の中でつくる砂像は、その場でしか見ることができない“一期一会”のようなもの」 と言われます。

 子供の頃、日の暮れるのも忘れて懸命に作った砂浜が一瞬にして壊れてしまう虚しさを思い出しましたが、この砂像には一瞬の作品が心に残るものとしてとても興味深く思います。

資料:あしや砂像展実行委員会(芦屋町観光協会)

 


  • ジャン・アンリ・ファーブルとゾウムシ


  • フンコロガシ(日本砂像彫刻家の作品)



  • 芦屋町観光協会ガイドブック

2023年11月号の問題.  下記の2つのご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【Q1】 スライドの見方は末梢血が縦読み、骨髄が横読みと習ったのですが、具体的な見方とその理由などを教えていただきたいです。

【助言1】 薄層塗抹標本(a)による 細胞の判読は、末梢血液像では塗抹の辺縁部や引き終わり部分を避けて縦読みするのが一般的です。一方、骨髄像は縦読みや横読みの決まりはないようです。
ただ、骨髄像は塗抹の引き終わりに付着する骨髄小粒子の周辺は末梢血の混入が少ないとされるため、それより中央寄りに横読みする方が良いとも言われ(青矢印)、また縦読みでは判読途中に細胞集団が途切れることがあるため、横読みの方がよいのかも知れません。提示標本は正形成の骨髄像です。

【助言2】 骨髄穿刺の塗抹には薄層塗抹標本(a)と圧挫伸展標本(b)がありますが、前者はウエッジ法にて標本を作製し細胞分類に適し、後者は骨髄小粒子を二枚のスライドガラスに挟み上下から圧迫して作製する方法で細胞密度の判読に適するとされます。
(b)では中心部の塊(赤丸印)が小さいほど低形成(本例は正形成)、大きいほど過形成とされ、その中心部の周辺領域(橙色丸印)は末梢血の混入が少ないとされ、細胞分類に使用されることもあり、辺縁(緑色)は末梢血の混入が最も多い領域とされます。


  • 薄層塗抹標本(a)


  • 圧挫伸展標本(b)


【Q2】 新人さんに向けて末梢血液像の指導の仕方や細胞の目合わせのための良い方はありますか。

【助言1】 指導者不足が指摘されるなか、新人さんを指導する技師がいることは羨ましい限りです。本件について、基準となるものを探しきれませんでしたので経験から述べます。
[指導者の心得] 1)指導スキルを習得しておくこと 2)新人のレベルを把握すること[実践的指導] ①“目的細胞” に対して類似細胞を連想させる ②類似細胞との相違点を述べさせる(大きさ・核・細胞質所見の違いなど) ③幾度か助言を行い軌道修正をする ④二転三転しながらも目的細胞を絞りこむ。
新人さんが目的細胞を理解すれば両者間に定量化が完成し到達目標となります。さらに、定期的に反復演習を行いレベルの向上を図ります。

【助言2】 細胞判読の戦略の一つとして「論理的解析法」(重田英夫先生.1982)をご紹介します。
①分析帰納法(成書や図譜の基準的な形態と比較して分類する) ②比較類推法(典型的な細胞を基準に系統別の変動幅を理解しいずれの群の特色を持っているかによって分類する) ③除外法(典型的な細胞を基準にどの系統にも合致しないことから別の系統に分類する)の三法です。
日頃より、我々の脳の解析機構はこのような論法に基づき、細胞を振り分けていることが推測されます。関連の指南書やネット情報は、偏見を避ける意味から複数のものから取得することをお薦めします。



2023年12月号の問題.  下記の2つのご質問をいただきましたがどのようにお答えしますか。

【Q1】 特殊染色をうまく染めるコツや練習方法などありましたら教えていただきたいです

形態マガジン号キャプテン  阿南  建一

MAPSS-DX-202312-12

著作権について

今回のねらい

「細胞同定」については、久しぶりに骨髄像の同定に挑戦します。紛らわしい細胞や鑑別を要する細胞を提示しましたので試みてください。
「ワンポイントアドバイス」は、骨髄像判読の際の縦読みか横読みかについて、また末梢血液像の目合わせについて解説してみたいと思います。

問題

問題1

1-1骨髄像の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-2骨髄像の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-3骨髄像の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-4骨髄像の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

解答・解説

問題 

骨髄像のMG染色で撮影は1000倍で行っています。核の陥没度については私見を述べます。

【解説】

A-1.2ともに直径18μm大、前骨髄球(B-4)に比べると小型、核はほぼ円形でクロマチンは粗剛で凝集塊を認め、細胞質は好塩基性が薄れ橙黄色で顆粒は小さく二次顆粒とみなし骨髄球としました。

B-1.直径14µm大、核は湾曲しその陥没度は1μm以上のことから桿状核球としました。
B-2.直径10μm大、核は円形でクロマチンは粗剛、10時方向に僅かに細胞質を認めリンパ球と思われます。
B-3.直径9μm大、円形核のクロマチンは粗剛で凝集状、細胞質は狭いながらも多染性色(青紫色)のことから多染性赤芽球としました。
B-4.直径28μm大、核は偏在傾向でクロマチンはやや粗剛、細胞質の好塩基性は強く特徴とされる一次顆粒は減少気味ですが前骨髄球と思われます。

C-1.直径15μm大、核は偏在しクロマチンは均一、細胞質に目立つ小さな空虚は顆粒の溶出と考え好塩基球としました。
C-2.直径17μm大、核はそら豆状でクロマチンは粗剛、核の陥没度が1µm未満のことから後骨髄球(大型)としました。
C-3.直径9μm大、円形核のクロマチンは粗剛で凝集塊を認め、細胞質は多染性色のことから多染性赤芽球としました。
C-4.直径11µm大、核は類円形でクロマチンは粗剛、細胞質は淡青色のことからリンパ球としました。

D-1.直径12µm大、核は円形で中心性、クロマチンは粗剛で凝集塊を認め、細胞質は多染性色のことから多染性赤芽球としました。
D-2.直径25μm大、円形核は一部不規則性で偏在しクロマチンは細網状、細胞質は好塩基性が軽度で辺縁が不明瞭のことから細網細胞としました。

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