【原 理】
ペルオキシダーゼperoxidaseは骨髄で産生される顆粒球系および単球系の細胞質に含まれる酵素であり、骨髄のmyeloをperoxidaseの頭につけてmyeloperoxidase(MPO)とも呼ばれる。MPOはH2O2を細胞質内のハロゲン化合物halide(KCIやKIなど)に反応させてペルオキシダーゼ作用を発揮し、
MPO
KCl+H2O2 → K++ClO-+H2O
のようにClO−(次亜塩素酸塩hydrochlorite)をつくる。ClO−は強い酸化・漂白作用をもち、貪食や殺菌の生理的機能を営むとされる。
したがって本法で証明されるのは、顆粒球、単球およびその未熟細胞に存在するMPOと好酸球のペルオキシダーゼ(EPO)である。
【臨床的意義】
AMLとALLの鑑別に用いられる。両者は化学療法がまったく異なることから鑑別は重要であり、FAB分類では芽球の3%以上が陽性の場合はAMLと診断する。
成熟好中球にMPO欠損症(先天性、後天性)があり、後天性ではMDSによくみられる。
【染色法】
ICSHで推奨されたのはジアミノベンチジンdiaminobenzidine(DAB)法、3-amino-9-ethylcarb-azol法であるが、ここでは従来より使用され、鋭敏度の高いベンチジン法(Mc.Junkin法)や4-chloro-1-naphthol法も加えて紹介する。
塗抹乾燥標本 |
固定液 冷凍室 1分 アセトン 60ml 蒸留水 40ml 25%グルタールアルデヒト 12ml (−20℃冷凍室で保存) 水洗 |
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↓ |
反応液 室温 10分 3.3°−diaminobenzidine 10mg 0.05M トリス塩酸緩衝液 (pH7.6) 40ml 3% H2O2 0.13ml 強く2〜3分振とうし、濾過後使用(完全に溶解しない) 水洗 |
↓ |
Mayer's hematoxylin 10分 水洗 風乾 |
【陽性顆粒:黒褐色】
塗抹乾燥標本 |
固定液 室温 30秒 37%ホルマリン 10ml 100%エタノール 90ml (室温保存) 水洗 |
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↓ |
反応液 室温 15分 3-amino-9-ethylcarbazole 10mg dimethylsulphoxide 6ml Michaelis緩衝液(pH7.4)* 50ml *バルビタールナトリウム20.6gを蒸留水に溶解する。 攪拌しながらこれに0.1M HCLを加え、pHを調節する。 (室温で3カ月保存可能) |
↓ |
0.3% H202 0.5ml 水洗 |
↓ |
Mayer's hematoxylin 15分 水洗 風乾 封入(グリセリン) |
【陽性顆粒:黄褐色】
塗抹乾燥標本 |
反応液 室温30秒 ベンチジン 0.1g メチルアルコール 20ml H2O 5ml 3% H2O2(局方) 2滴 または ベンチジン 0.1g 80%メチルアルコール 25ml 3% H2O2 2滴 |
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↓ |
H2O 約2倍量を追加し、軽く混和 3分 (軽く息をかけながら、こぼさないように) 水洗 |
↓ |
ギムザ染色 20分 水洗 風乾 封入(enteran neu) |
【陽性顆粒:黄褐色】
【ワンポイント】
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塗抹乾燥標本 |
反応液 室温30秒 4-chloro-1-naphthol 0.2g 80% エタノール 100ml 3% H2O2(局方) 5〜6滴 |
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1/15M リン酸緩衝液(pH6.4) 2倍量 軽く混和後 5分おく 水洗 |
↓ |
ギムザ染色 20分 水洗 風乾 |
【陽性顆粒:青色】
【ペルオキシダーゼ染色判定法】
ほとんどの報告例において、反応態度に対する型別判定はされず、単に陽性か陰性かの判定をしたり、反応の強さを、おおざっぱに−〜に分けたものが多い。そのなかで型別分類の報告もわずかながらあった。
〔従来の判定法〕
0型 | 陽性顆粒なし |
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I型 | 陽性顆粒1〜5個 |
II型 | 陽性顆粒6〜30個 |
III型 | 陽性顆粒30個以上 |
A.同一症例(末梢血:AMLの芽球)におけるMPO反応態度のいろいろ
図1 DAB法
DAB法
後染色にギムザ染色を実施することで、普通染色との対比が可能となり判定しやすくなる.陽性顆粒は黒褐色の陽性態度を示す.従来の判定法では、中央12時はII型、6時は下部に凝集塊がみられるのでIII型となる.
図2 4-chloro-1-naphthol法
4-chloro-1-naphthol法
核染の色調に対し、陽性顆粒は青色を呈することで対比染色となり判定しやすい.陽性顆粒の判定では4時の方向の芽球はIII型を示す.
B.真の陽性反応と偽りの陽性反応
隣接する細胞が陽性を呈する場合、その陽性反応に邪魔されて芽球がまるで染まったかのようにみえる場合があり、留意して観察する必要がある.真の陽性像は細胞質全体に散在性か、あるいは核にも陽性顆粒を認めることで鑑別可能である.
図3 ベンチジン法
ベンチジン法
(中)(右)の芽球は隣接した細胞と重複した部分のみが陽性像としてみられるので偽性の陽性反応であり、(左)の芽球は隣接する部分以外にも顆粒陽性が散見されるので真の陽性反応と解釈する.
C.MPO欠損好中球の見分け方(ベンチジン法)
図4 MDS(CMMoL)よりAMMoLへの転化例
MDS(CMMoL)よりAMMoLへの転化例
中央の未熟顆粒球系細胞に陽性がみられるが、12時方向の好中球は陰性であるのでMPO欠損の好中球と判定する.ちなみに左2個は芽球様細胞でともに陰性である.
D.MPO反応強陽性像
図5 ベンチジン法にて実施したAML(M3)の症例
ベンチジン法にて実施したAML(M3)の症例
(左)MG染色にて比較的アズール顆粒の少ないタイプであるが、MPO反応活性(右)は細胞質一面にベタッとした染色性を呈することで異常前骨髄球を推定させる所見である.
形態学からせまる血液疾患 阿南建一ら (株)岡山メディック、(株)近代出版 1999年