7.好中球アルカリフォスファターゼ(NAP.ALP)染色
【原 理】
アルカリフォスファターゼalkaline phosphatase(ALPase)は細胞中のlysosomal enzymeの一種で、アルカリ域(pH8~9)でリン酸エステルを加水分解する酵素である。血液細胞では好中球に豊富に含まれ、ALPaseは少なくとも5種類存在するが、好中球アルカリフォスファターゼneutrophil alkaline phosphatase(NAP)は骨型アイソザイムと同じと考えられている。
一般にアゾ色素法がよく用いられており、本邦では基質にnaphthol AS-MX phosphate Na塩を、ジアゾニウム塩にfast blue RRを用いる朝長法が普及しているが、ICSHはKaplow法も推奨している。
【臨床的意義】
NAP活性の低値は、CMLの慢性期、発作性夜間血色素尿症(PNH)および伝染性単核症(IM)をはじめとするウイルス感染症でみられる。CMLでは他の骨髄増殖性疾患では高値を示すことより鑑別診断となり、PNHでは同様に汎血球減少を示す再生不良性貧血で高値を示すことで対照的である。
【ワンポイント】
- 活性低下の原因として、EDTAなど抗凝固剤にて採血した場合、塗抹から染色まで時間がかかった場合、固定液不良の場合、などがあげられる。対策として、耳朶採血が望ましく、抗凝固剤採血の場合はせめて30分以内に処理する。
- 固定液はフリーザーに保存し、固定時間を厳守。
- 反応は湿潤箱(濾紙に水を浸す)にて行う。
- 反応終了後の水洗はやや強めに行う。
- 判定の際は好中球を算定するが、活性の低い場合は同大の好塩基球も陰性を示すので注意して観察する。好塩基球は一般に細胞質の顆粒のあとが抜けてみえるので鑑別可能と思われる。
- 好中球減少症の検体にて実施する場合は、buffycoatを作成し用いる。
- 封入剤のグリセリン・ゼラチンはサフラニンOを溶出させる恐れがある。
(1)朝長法
【陽性顆粒:青色】
(2)Kaplow法
【陽性顆粒:青色】
【ワンポイント】
- 朝長法に比べ反応時間は短くてすむが、経験上弱い活性の陽性率が低くでる傾向にある。
- 後染色にサフラニンを用いることで対比染色となり、陽性態度を十分に把握することができる。
【朝長法によるアルカリフォスファターゼ(ALP)染色判定法】
0型 | 陽性顆粒なし |
---|---|
I型 | 陽性顆粒5個まで |
II型 | 陽性顆粒30個まで |
III型 | 陽性顆粒不平等に分布 |
IV型 | 陽性顆粒平等に分布、間隙あり |
V型 | 陽性顆粒平等、密に分布 |
【ALPスコア算定法】
〈朝長法〉
naphthol AS-MX phosphate/fast blue RR スコア(S):成熟好中球を100個算定
0型 | 陽性顆粒なし(n0) |
---|---|
I型 | 陽性顆粒1~5個(n1) |
II型 | 陽性顆粒5~30個(n2) |
III型 | 陽性顆粒30個以上、不平等に分布(n3) |
IV型 | 陽性顆粒平等に分布、間隙あり(n4) |
V型 | 陽性顆粒平等、密に分布(n5) |
S=1×n1+2×n2+3×n3+4×n4+5×n5 |
[正常範囲]
陽性指数:170~330
陽性率(R):75~95%〔陽性好中球(1~5)の百分率〕
〈Kaplow法〉
naphthol AS-BI phosphate/fast blue BB(N) スコア(S):成熟好中球を100個算定
0型 | 陽性顆粒なし(n0) |
---|---|
I型 | ごくわずかな陽性顆粒(n1) |
II型 | わずか、ないし中等度の顆粒(n2) |
III型 | 中等度、ないし多数の顆粒(n3) |
IV型 | 細胞質一面に顆粒が満載(n4) |
S=1×n2+2×n2+3×n3+4×n4 |
[正常範囲]
陽性指数:30~130
【朝長法による適応症例】
NAP活性の低下(スコア200以下) |
---|
CMLの慢性期 |
発作性夜間血色素尿症 |
伝染性単核球症などのウイルス疾患 |
急性肝炎 |
AML(8;21転座型) |
NAP活性の上昇(スコア320以上) |
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感染症の合併または急性転化時のCML |
原発性骨髄線維症 |
ALL |
Down's症候群 |
類白血病反応 |
再生不良性貧血 |
真性赤血球増加症(多血症) |
悪性腫瘍 |
化膿性細菌感染症 |
朝長法における判定所見
図1 末梢血 NAP染色
[CML慢性期の症例]
NAP活性の著減を呈したCMLの慢性期像である.11時の方向にⅢ型の陽性好中球がみられ、12時、9時方向の好中球は陰性である.その他は好中球類似の好塩基球と思われ、これらは本反応に陰性であるので好中球と鑑別を要する.
図2 末梢血 NAP染色
[類白血病反応の症例]
白血病数35、000/μlと著増し、形態学的にCMLを疑ったが、NAP活性は強く、しかもPh1染色体は陰性より類白血病反応と診断した症例である.Ⅳ~Ⅴ型が主体で陽性指数390、陽性率98%の高値を示していた.
図3 骨髄(左)MG染色 (右)NAP染色
[骨肉腫の症例]
本例は骨肉腫osteosarcomaとして診断された症例で、腫瘍性細胞は骨髄に増殖傾向にあり、NAP染色において細胞質一面に青色顆粒状に陽性を示し、診断に有効となる.
形態学からせまる血液疾患 阿南建一ら (株)岡山メディック、(株)近代出版 1999年