第77回 「マンスリー形態マガジン」 2017年9月号

『 驚愕な生物と食中毒 』

 最近、有毒な生物と食中毒のニュースが世間をにぎわせていますが、先日TV放映された情報をもとに少し紹介したいと思います。
  海水温の上昇に伴い分布北限が北上を続け日本の近海で捕獲されはじめた「豹紋蛸:ヒョウモンダコ」 、フグと同じテトロドトキシンの毒を有する危険生物で、これについては8月号で紹介しました。
  次の登場は「火蟻:ヒアリ」、南米大陸原産でアルカロイド系の毒を有する危険生物です。命の危険があるのは、アレルギー症状のなかでも特にアナフイラキシーショックが起きる場合で死亡することがあるそうです。
この5月海外から神戸港に入港したコンテナから発見されて以来、横浜港では700匹以上も発見され、巣を作り繁殖していた可能性があるようで、恐怖の外来種として水際対策が急務になっています。
  このヒアリの天敵はアマゾンなどに生息する「ノミバエ」(ハエの一種)で、すでに日本にも上陸し生息しているようです。なんとこのノミバエの繁殖する過程がキモすぎて怖い。腹部の棘(とげ)をヒアリの体に刺し、一瞬で200個もの卵を産み付け寄生し、ヒアリの体内で成長し続け、成虫になるとヒアリの頭に入り、脳を食べ酵素を分泌し溶解し、転げ落ちたヒアリの頭部からノミバエの成虫が現れるそうです。アメリカでは別名“ゾンビバエ”とも呼ばれているそうです。アメリカではヒアリの駆除に導入されているそうですが、日本の取り組みはどうなるのでしょうか。
  次にヒラメに寄生し食中毒を引き起こす「クドア」です。クドアはヒトには無害な魚の寄生虫とされていましたが、2000年以降、西日本を中心に発生した“謎の食中毒”の原因として2010年に同定されました。
  それ以降増加傾向にあり、2016年ではアニサキス食中毒(126件)を抑えクドア食中毒は259件にも及んでいます。イカに寄生するアニサキスに比べ小さく肉眼でみることは不可能なようで、冷凍(-20℃4時間)または加温(75℃5分)処理で防御できるそうです。7月から10月にかけてピークのようですので“ヒラメ刺し”には十分注意しましょう。

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



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今回のねらい

  今回は、骨髄の細胞同定と形態診断に挑みます。
細胞同定は骨髄でよく遭遇する細胞を提示しました。なかには鑑別を要する細胞もありますのでそのポイントを捉え同定してみて下さい。
  症例編は、僅かな臨床と検査所見から、末梢血と骨髄のMG染色から形態診断を行なって下さい。尚、PO染色、PAS染色、EST染色すべて陰性でした。また、本例と類似する疾患を考え、鑑別ポイントはどこにあるでしょうか。

問題

骨髄の細胞同定を行なって下さい。

1-1<問題1-A>

  • BM-MG×1000

1-2<問題1-B>

  • BM-MG×1000

1-3<問題1-C>

  • BM-MG×1000

1-4<問題1-D>

  • BM-MG×1000

骨髄像より考えられる疾患は何ですか。

2-1<設問1>

【所見】
【65-70歳.男性】主訴:貧血
WBC26,800/μL、RBC348万/μL、Hb10.9g/dL、Ht32.4%、PLT11.2万/μL、NCC24.6万/μL、PO/PAS/EST染色(陰性)

  • PB-MG×1000

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
   骨髄の細胞同定です。類似細胞については鑑別ポイントを明確にして同定を試みて下さい。

【正答】

(Case A) 1.後骨髄球、2.分葉核球、3.好塩基球、4.骨髄球、5.正染性赤芽球
(Case B) 1.桿状核球、2.分葉核球
(Case C) 1.組織球、2.好酸球、3.単球、4.多染性赤芽球
(Case D) 1.好塩基性赤芽球、2.多染性赤芽球、3.正染性赤芽球

【解説】

(BM-MG ×1000)
A
B
C
D
(Case A)
  好中性顆粒球の成熟過程は4.→1.→2.の順になります。4.の細胞質は若干好塩基性ですが、前骨髄球に比べると小さく、核は中央寄りで核網工は粗、顆粒も小さい(二次顆粒)ことから骨髄球でよいと思います。1.は核に陥没(湾曲)がみられ短径が長径の1/3以上の長さより後骨髄球、2.は核の重なりがみられることより分葉核球と思われます。3.は核の上にも黒紫色の太い顆粒がみられることより好塩基球、5.は核濃縮がみられることより正染性赤芽球に同定しました。

(Case B)
  1.はA-1.より湾曲が強く短径が長径の1/3未満のことから桿状核球、2.は過分葉気味の分葉核球と思われます。





(Case C)
  1.は単球に類似していますが、4.の単球(周囲の細胞に押されて少し萎縮気味)に比べると40μm大の大型より非造血細胞と考え組織球に同定しました。2.は好酸球で、4.は細胞質の多染性の色調より多染性赤芽球に同定しました。



(Case D)
  1.と2.は赤芽球系の分裂後の細胞が伺え、いずれも大きさと細胞質の色調が決め手になりそうです。
1.は好塩基性より好塩基性赤芽球、2.は多染性の色調に加え核網工が荒く、クロマチンの結節が明確にみえることから多染性赤芽球に同定しました。それらに比べ、3.は細胞全体も小さく、細胞質の色調は好酸性が強く、核網工は粗荒で核は濃染状のことから正染性赤芽球に同定しました。



問題 2

   高齢の男性例。近医にて脾腫を指摘され、精査のため貧血と白血球増加を認め入院となりました。 脾腫(6横指)を認め、リンパ節腫大はみられませんでした。

【解説】

(PB-MG ×1000)

(BM-MG ×400)

(BM-MG ×1000)

(BM-MG ×1000)

【末梢血液像所見】(A図)
   白血球増加(26,800/μL)の血液像でリンパ球様細胞は90%と増加していました。それらのなかに中~大型で、N/C比は全般に低く、一部に核形不整や核小体また細胞質に突起を有するものが65%みられました。
それらは形態所見から前リンパ球を考えました。

【骨髄像所見】(B図)(C図)(D図)
   正形成の骨髄(24.6万/μL)ではリンパ球様細胞が88.0%と増加していました。
それは末梢血と同様な大きさで、N/C比は高く、核形不整や核小体を認めたことから、主たる細胞は前リンパ球を考えました。 

【特殊染色】(提示画像なし)
   リンパ球様細胞はPO染色、PAS染色、EST染色に陰性でした。

【染色体所見】
    46,XY

【表面形質】
    CD19・CD20・FMC7・smIgM+D(+)、HLA-DR(+)

【臨床診断】
高齢で、末梢血のリンパ球数が5,000/μL以上(実際は24,120/μL)を呈し、形態所見から前リンパ球の増加と考えそれらは骨髄にも増加していました。それらは慢性リンパ性白血病(CLL)と一見類似しますが、核形不整や核小体の所見は合致せず、さらにB-リンパ球マーカーに加えFMC7やsmIgM+Dの発現が強度であることも合致しないことから前リンパ球性白血病(prolymphocytic lekemia:PLL)を疑いました。結局、PLLに特徴とされる巨大脾腫も認めていたことより、PLLと診断されました。
本型は従来よりCLLの範疇に分類されていましたが、1974年Galtonらが細胞形態や孤立性脾腫(リンパ節腫大を伴わない脾腫)などを特徴とした予後不良群を、CLLとは異なるものとして独立した疾患に提唱しました。



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