第55回 「マンスリー形態マガジン」 2015年11月号

『 私の履歴、完結編 』

前 略

民間から厚生省管轄病院として大阪からスタートした私の履歴もいよいよ完結編を迎えます。
国立病院から委譲され新生の中津市民病院を後に、2000年7月国立都城病院(宮崎)へ技師長として異動しました。中規模病院で黒字収支のもと血液内科、産科、小児科の患者さんが多く、なかでも産科の緊急検査は多く、当直時にはかなり鍛えられました。検査科の科長は血液内科の部長を兼ねており、骨髄検査にご熱心な先生で1日に4~5検体の時もあり、よく一緒に鏡検したことが思い出されます。研究検査科は7名で構成され、若手から中堅の個性豊なメンバーが業務に携わり“荒野の7人”としてまとめておきましょう。
国立病院の独立行政法人化に伴い、2004年4月に名称も新たな国立病院機構九州がんセンターの技師長として再び福岡へ戻り定年までの4年間を過ごすことになります。検査科のスタッフは病理医2名(1名は検査部長)を含め22名で構成されていました。独立行政法人化に伴い医療状況も厳しく、検査科は業務改善や経営改善が求められ、病院機能評価(v5.0)の取得など最初の2年間は貴重な体験を強いられました。まずは在庫管理から取り組み、検査部長、副技師長やスタッフの協力のもと“改革を求める軍団”と称した各種委員会を立ち上げ、年間の諸経費の節減に努めその実績を院内集談会で発表したことにより、大型機器などの更新や新規導入につながりました。後に、この実績は九州初の「SPDの導入」にもつながり、また、人件費や材料費の収支管理を行い、労働分配率による適切な人員配置も行い、“どんぶり勘定”の私にとって信じられない結果となりました。ここでは“そろばん音頭”とでも言っておきましょう。そして病院機能評価も無事通過することになりました。
最後の2年間は、当初から院長より依頼されていた「血液腫瘍画像データベース」の構築の作業に取りかかることになります。「がん対策基本法」(2007.4)が制定され医療情報の提供が求められるなか、当センターは、1998年よりWebサイトを利用した画像データベースとして、消化管、癒し憩いの画像を公開しておりました。
これは厚生労働省第3次対がん総合戦略研究事業の一環として取り組まれたものであり、その一角に血液画像データベースが参画したことになります。これまでの収載は2014年4月1日現在、登録例225、登録画像数1,754で、ページビューのアクセスは2,023,492に至り、2010年4月21日には京都にある国会図書館に登録されました。これら一連の活動は「研究活動と業務改善そして憩い」と題し九州がんセンター開設40年記念誌に記載されました。
こうして、2007年4月、技師生活約40年のうち約20年を過ごさせて頂いた九州がんセンターで最終楽章を迎えることができたことは何よりも幸せ者でした。

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



著作権について

今回のねらい

今回は末梢血液像および骨髄像の細胞同定と光顕的診断に挑みます。
末梢血液像では赤血球形態異常よりその出現機序と考えられる疾患について模索してみます。
また、末梢血液像では絶対見落としが許されない急性前骨髄球性白血病(APL)の細胞と類似した細胞を提示し鑑別を試みます。
骨髄では代表的な骨髄転移腫瘍細胞を提示し鑑別のポイントに迫ってみたいと思います。

問題

末梢血の細胞同定(→)を行い、出現機序や疾患を考えて下さい。

1-1<設問1>

1-2<設問1>

1-3<設問1>

1-4<設問1>

末梢血に出現したAPL細胞はどれでしょう。

2-1末梢血に出現したAPL細胞はどれでしょう。

骨髄転移性腫瘍細胞はどれで何を考えますか。

3-1骨髄転移性腫瘍細胞はどれで何を考えますか。

  • (成人例)

  • (成人例)

  • (小児例)

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
末梢血液像における赤血球の形態異常と血小板類似物質について考えてみます。
先月号は2ヶ所の間違いがありましたことをお詫び致します。まず問題に血小板類似物質の記載がなかったこと、次に選択細胞に標的赤血球(⑦)の項目がなかったことです。インシデントになってしまい閲覧の皆様には大変ご迷惑をおかけしましたことを改めてお詫び申し上げます。

【正解】

(CASE A) ⑦.標的赤血球、(CASE B) ③.赤血球の断片化、
(CASE C) ⑥.球状赤血球、(CASE D) ⑤.クリオグロブリン

【解説】


(CASE A) 
標的赤血球は見間違えることはないのですが、発生機序がC.の球状赤血球と異なることで提示しました。標的赤血球(codocyte)は、正常の赤血球に比べ膜の表面積/体積比が増加して出現するといわれます。これには細胞膜にコレステロールが挿入されて膜過剰が生じて起こる場合とヘモグロビン合成が障害されると体積が減少し相対的に表面積が過剰となり出現する場合が考えられます。前者は慢性肝炎や摘脾術後にみられ、後者はサラセミア、鉄欠乏性貧血や異常ヘモグロビン症でみられます。

(CASE B) 
赤血球の断片化を提示しました。この形態異常の代表的なものは破砕赤血球ですが、よく観察すると少し異なる点があります。破砕赤血球は物理的な力で引き裂かれ赤血球の全面にわたり断片化が起こるもので、一般的には小球状で、ヘルメット型やつの型などの形態を示すのに対し、本例は赤血球の端の一部がちぎれた形態を示すことです。これは不安定ヘモグロビン症において、ハインツ(Heinz)小体が脾臓で取り除かれた際に生じるもので断片化(bite cell)として出現します。
出現機序としては、大量の酸化剤によるヘモグロビンの変性、赤血球の酸化防御作用の低下、酸化を受けやすい異常ヘモグロビンが存在するときに形成され、変性ヘモグロビンが血球内に凝集するためといわれます。この証明にはブリリアント緑、ブリリアントクレシル青を用いた超生体染色で行います。本例は摘脾前にみられたもので周囲にはウニ状赤血球もみられます。
(文献. 三輪史朗・渡辺陽之輔・阿南建一ほか:血液細胞アトラス第5版.150.文光堂.2004)

(CASE C) 
球状赤血球(spherocyte)は、正常の赤血球に比べ表面積/体積比が減少するといわれます。
これにより血球の変形能が悪くなり、浸透圧の低下が起こり溶血につながります。球状赤血球の出現機序は、①カップ型に変形し球状化するもの、②補体や抗体が結合した赤血球膜がマクロファージに貪食され、内容に比し膜を過剰に失って球状化になるもの、③細胞突起が生じ(ウニ状赤血球より)、膜からなる細長くなった突起がちぎれて球状化になるものなどがあるようです。考える病態は、①遺伝性球状赤血球症、②自己免疫性溶血性貧血、③老化赤血球・輸血された保存赤血球などです。
(文献. 松本昇:ベーシック形態検査-赤血球.573-576.医歯薬出版.1988)

(CASE D) 
血小板に比べ白い球体が集合したものはクリオグロブリンで血小板類似物質とされます。
クリオグロブリンとは、37℃以下に冷却すると白色沈殿やゲル化を起し、37℃以上に加温すると再溶解する病的な免疫グロブリン(Mタンパク)の一種です。
従って、自動血球計数装置でこの球体は固まり具合によっては、白血球数、血小板数、赤血球数が偽高値を招きますので、37℃で温めて固まりを解離してから再測定し報告することになります。
本症はワルデンストロームのマクログロブリン血症に出現するもので分子量の大きいIgMが過剰に出現され、最近では単クローン性のリンパ形質細胞増殖によるリンパ形質細胞性リンパ腫として形質細胞腫瘍に含まれています。
寒冷曝露によって、寒冷蕁麻疹、レイノー(Raynaud)現象、四肢末端のチアノーゼ、眼底出血などの臨床症状がみられます。

問題 2

(正解と解説)

【正解】 ④.B.D.F.である

【解説】



急性前骨髄球性白血病(APL)のAPL細胞は末梢血で見逃しが許されない細胞であることは周知のことですが、それは本細胞がDICを引き起こす要素をもっているため出血死の転帰をとることにあります。一方、本細胞を見つけ出すことにより分子標的療法(ATRA療法)などが適用され今や完治への希望にもつながります。本症で、特に汎血球減少症を示すものについては、時間をかけてAPL細胞を見つけ出すことが重要であり、骨髄穿刺への導線を短くし、早期診断に努めることになります。
末梢血のAPL細胞の形態は骨髄でみられるものと比し、比較的アズール顆粒は少なく、アウエル小体もさほど多くみられませんが、大型で顕著な核形不整(亜鈴状核)は特徴的です。
末梢血で疑わしき細胞を見つけたときは、ペルオキシダーゼ(PO)染色を行い、その強陽性態度をポイントにします。
本例は、①大型細胞、②顕著な核形不整、③微細なアズール顆粒を有し、看板とされるアウエル小体やファゴット細胞はさほどみられませんでした。
本例では、B.D.FがAPL細胞になり、F.に辛うじてアウエル小体がみられます。
E.は細胞質一杯にアズール顆粒を有する前骨髄球がみられますが、本例はG-CSFの投与後にみられたもので、勿論アウエル小体は認めませんでした。ちなみに、A.は単芽球、C.はATL細胞です。

問題 3

(正解と解説)

【正解】

[設問1] ③.BとCである
[設問2] B-①.腺癌、C-④.神経芽細胞腫

【正解と解説】

 

A.は正常の骨髄像です。この集合はB.と鑑別を要します。
A.の集合は細胞を剥がすと地肌(赤血球)がみえるような平面的で重積性がないのが特徴です。一方、B.の集合は細胞を剥がしてもその下に細胞が存在する立体的で集積性がうかがえるのが特徴です。集合をなすこれらの細胞は正常の血液細胞に比し、大型で、N/C比は高く上皮性結合をなして出現しています。それらの細胞質は微細空胞状(レース状)で、核は偏在性で、多くは細胞質と重なり合う変化(merge)がみられます。
以上の所見より腺癌細胞を考え、本例は胃癌の骨髄転移と診断されたものです。
C.の集合は平面的ですが、集合の形式はロゼット形成を思わせることから偽ロゼット形成として捉え、これらの細胞はN/Cが高く、クロマチンは粗網状で、なかには孤立性のものや核影もみられます。孤立性の出現についてはALLとの鑑別が重要となり、ALLであればB細胞性またはT細胞性を証明することになります。
以上の所見より神経芽細胞腫細胞を考え、本例は後腹膜腫瘍として発病した神経芽細胞腫の骨髄転移と診断されたものです。



これから先のページでは、医療関係者の方々を対象に医療機器・体外診断薬等の製品に関する情報を提供しております。当社製品を適正に使用していただくことを目的としており、一部の情報では専門的な用語を使用しております。
一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承ください。

医療関係者の方は、次のページへお進みください。
(お手数ですが、「進む」ボタンのクリックをお願いします)