2013年11月21日掲載

日本臨床検査自動化学会 第45回大会 ランチョンセミナー

Vol.21「proPSA」、既存指標と比べ優れた特異度

Vol.21:日本臨床検査自動化学会 第45回大会 ランチョンセミナー「proPSA」、既存指標と比べ優れた特異度不要な生検、50%以上の回避も

  前立腺がんの診断には前立腺特異抗原(PSA)検査が広く活用されている。このPSAの前駆体で、より前立腺がんに特異的な腫瘍マーカーとして注目されている「proPSA」。群馬大学大学院医学系研究科泌尿器科学の伊藤一人准教授は10月11日、「日本臨床検査自動化学会第45回大会」のランチョンセミナー(後援:ベックマン・コールター社)で講演し、proPSAを使った指標が「既存のPSA関連指標より優れた特異度を示している」と指摘。がんの悪性度との相関も示唆されるとして、今後の臨床応用に期待感を示した。

伊藤氏  正常な前立腺組織の中でproPSAは腺細胞から腺腔内に分泌され、プロテアーゼであるhk2(human kallikrein 2)によって活性型PSAに変換される。
この活性型PSAは血中でα1antichymotripsin(ACT)と結合し結合型PSAとして存在するが、一部はたんぱく分解で非活性型PSAとなり、血中で遊離型PSAとなる。
前立腺がん組織ではhk2の活性が低下することで腺腔内にproPSAが蓄積し、がん細胞基底膜の破綻でproPSAが血中に逸脱していく。伊藤氏はproPSAの動態を踏まえて「proPSAはがん細胞だとより蓄積しやすい」と指摘し、「さまざまな研究結果から特に[-2]proPSAのがん診断精度が高いことが示唆されている」とした。

proPSA関連指標の「phi」、高い特異度

座長の上村博司氏(横浜市立大学大学院准教授)  PSA関連指標には大きく分けて、血清検査の結果から算出する指標と、それを前立腺体積で補正する指標がある。伊藤氏は既存のPSA関連指標とproPSAを使った指標でがん診断精度の比較を実施し、その研究成果を報告した。研究は239人(PSA値2~10ng/mL)の凍結保存血清を使用し、総PSA・遊離型PSA・[-2]proPSAを測定したほか、全症例の前立腺体積(総体積、移行領域体積)も測定。生検は年齢や前立腺体積に応じて8~20カ所から採取する方法をとった。
  がん診断感度を90%と95%に設定しカットオフ値と特異度を見た。既存指標である総PSAは95%がん診断感度で特異度が10.8%、遊離型PSA/総PSA比(F/T比)は14.0%だった。[-2]proPSAを含んだ指標で最も成績が良かったのは「phi」で、特異度28.0%と優れたパフォーマンスを示し、伊藤氏は「高い診断感度を維持しながら、proPSA関連指標はPSAやF/T比と比較して優れた特異度を示した」と指摘。さらに「phiは血液検査だけのシンプルなマーカーだが、95%感度で特異度は28%、90%感度では33%。約3割の不要な生検を回避することができる」と述べ、高いパフォーマンスを評価した。

PSA関連指標のがん診断感度と特異質

  前立腺体積で補正した指標でも、[-2]proPSAを含んだ指標が高い特異度を示した。90%がん診断感度で特異度を比較すると、PSAを前立腺総体積で割った「PSAD」は36.0%、同様に移行領域体積で割った「PSATZD」は36.6%だった。phiを移行領域体積で割った「phi TZD」の特異度は54.3%となり、半分以上の不要な生検を回避できる可能性を示した。
  PSA、proPSA関連指標と前立腺がんの腫瘍悪性度を示すグリーソンスコア、生検組織内での腫瘍占拠率との相関について、伊藤氏は「既存のPSA関連指標では、前立腺がんの活動性や悪性度を知ることは難しい」と指摘。一方で、phiを使った指標はグリーソンスコアや腫瘍占拠率との相関が見られたことから「臨床応用への期待が広がる」とした。

がんリスク予測への期待も

5年以内にPSAが異常値になる可能性  前立腺がんに罹患する危険予測因子として「PSA基礎値」がある。5年以内にPSAが異常値になる可能性は、PSA基礎値が0.0~1.0ng/mLの人が1%、1.1~2.0ng/mLで8%、2.1~3.0ng/mLで30%、3.1~4.0ng/mLで60%とされている。伊藤氏はPSA基礎値について「世界共通の人種や年齢差を超える前立腺がん危険予測因子」としている。
一般的にPSA2.0ng/mL以下は、数年中の前立腺がんへの進展リスクは低いとされる。伊藤氏は「現在、2.0ng/mL以下でproPSA関連指標の前立腺がん罹患危険予測因子としての可能性を探索する研究の準備を進めている」と明らかにし、今後、取りまとめた研究成果を発表する予定だという。
がんの診断精度や生物学的悪性度、罹患危険予測因子としてproPSAの有用性が明らかになりつつある。伊藤氏はproPSAの将来展望として、欧州泌尿器科学会が公開している前立腺がん予測ツールへ反映することで、「予測精度を上げることができるのではないか」とした。また、前立腺全摘出後や放射線療法後のフォローアップ、転移がんや去勢抵抗性前立腺がんへのホルモン療法・化学療法の効果判定などで正確な診断ができる可能性があるとさらなる期待感を示した。

(The Medical & Test Journal 2013年11月21日 第1253号掲載)

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